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日本人の「睡眠時間」が世界各国のそれに比べて短いということは、たびたびニュースになっています。このうち「子供の睡眠時間」においても、同様に短いことが懸念されているのをご存知でしょうか?

子供にとって「睡眠」は発育において影響が大きく、睡眠不足になると様々な問題が起こることが報告されています。この記事では、短時間睡眠のリスクについてや、質の良い睡眠のために何をしたら良いのかについてご紹介します。

国民全体が”睡眠不足状態”の日本!幼児の睡眠事情は?

日本は、国民の睡眠時間が最も少ない国である……ということはご存知でしょうか?
OECDの「Gender data portal 2019」では、世界各国の睡眠時間が調査されています。その結果によると、日本は442分(7時間22分)と、世界で最も短い睡眠時間の国であることがわかったのです。
その次に短いのは韓国ですが、471分(7時間51分)と30分ほども多いのがポイント。ちなみにアメリカは528分(8時間48分)、最も長い南アフリカは553分(9時間11分)となっています。

子供についてはどうでしょうか。
平成22年度に日本小児保健協会が実施した「幼児健康度に関する継続的比較研究」において、22時以降に寝る子供がピーク時よりは減っているものの、多くの割合でいることが報告されています。

  • 1歳6ヶ月……30%
  • 2歳児……35%
  • 3歳児……31%
  • 4歳児……26%
  • 5〜6歳児……25%
  • こうしてみるとわかるように、多くの子供が遅い時間に寝ているのです。

    大人でさえ、疲れている日は22時頃にもなれば眠くなってしまうのに、多くの割合で幼児が日常的に22時以降に寝ているのは驚きではないでしょうか。そのぶん朝起きる(起こす)のも大変になり、日中は元気に遊べているのか心配になってしまいますね。

    遅く寝ている子供は、親も寝る時間が遅い生活習慣であることが多く、子供も同じ生活習慣で過ごすことで就寝時間が遅くなってしまうという傾向があるようです。また、夕食の時間や見ているテレビなどで、就寝時間が変化することもあります。

    「生活リズム」は3歳頃にできた生活習慣がその後も継続しやすいとされています。そのため、幼児期からの生活習慣を両親が意識して確立していく必要があるといえるでしょう。

    うつ、イライラ、成績低下……子供にとっての「短時間睡眠のリスク」

    「睡眠時間が子供の発育にとって重要である」ということについて漠然と理解している親は多くいますが、具体的に睡眠時間が短いことによりどんなリスクが発生するのでしょうか。
    ここからは、睡眠時間が関係する「子供への影響」についてご紹介します。

    睡眠時間が短いと「太りやすい子」に!?

    イギリス・ウォーリック大学のMiller(ミラー)博士らの研究では、睡眠時間が短い子供は、適切な睡眠時間をとっている子供と比べて、肥満リスクが約1.3~2.2倍高いと報告しています。乳児期・幼児期・学童期・思春期の4つの年齢層に分け、計7万5千人の追跡をした結果、4つすべての年齢層で「体重が増加傾向にある」という結果が得られました。

    肥満は、子供でも増え始めている「2型糖尿病」や「心血管疾患」へとつながる恐れがあります。それゆえに、睡眠時間が短いことで大人になったときに生活習慣病を抱えることがが懸念されています。とくに思春期で体重増加に悩んでいる子供は、睡眠時間の見直しをしてみるのはおすすめです。

    富山大学の関根教授の研究に、3歳児のときの睡眠時間に対し、13歳(中学1年生)になったときの肥満傾向についての追跡調査をおこなったものがあります。
    ここでは中学1年において肥満になった割合を調べており、3歳までに11時間以上睡眠をとっていた場合は12.2%、9時間台は15.1%、9時間未満は20.2%と、睡眠時間と肥満の割合の因果関係を示す結果が現れています。

    その後の人生の生活習慣や健康維持のためにも、3歳までに長く寝る習慣を身につけておきたいものです。

    「成績」を上げるには適切な睡眠時間が必要!

    臨床心理学者の上里一郎教授による著書「睡眠とメンタルヘルス」では「適切な睡眠が取れていないと、認知能力の遅れが起こる」と述べられています。

    睡眠〜覚醒の生活リズムが規則正しい子供と、リズムが乱れている子供へ「三角形の模写」のテストをした実験があります。
    生活リズムが乱れている子供のうち、三角形がうまく描けなかった子供は、リズムが規則正しい子供と比べて5.6倍もいたという結果がみられたのです。

    また、アメリカのザ・ホーリークロス大学Wolfson(ウォウルフソン)教授らは、13歳〜19歳の4つの公立高校に通う120人の生徒を対象に調査を実施しました。この調査では、就寝時間が遅くて睡眠時間が短い子供ほど「成績が悪い」という報告があがっています。睡眠が足りないと、理解や判断・論理などの認知機能が低下してしまい、成績ダウンにつながると解釈できます。

    極端に睡眠時間が短く(6時間45分以下)週末にはいつもより2時間以上寝るのが遅いグループは「日中の眠気がひどく、憂鬱な気分になる」と答えた人が多かったという結果もあります。

    睡眠不足によって脳の発達に影響するということだけでなく、眠気によって授業に集中できない懸念も明らかになった結果でした。

    睡眠不足で「抑うつ」や「イライラ」が起こる

    大人でも、睡眠不足の翌日にはボーっとしてしまい、小さなことでイライラするのを感じることがあるでしょう。
    夜更かしや睡眠不足によって生活のリズムが乱れると、イライラしたり抑うつ状態になり「精神状態の悪化が出現する」ということが、江戸川大学の浅岡准教授の研究によって報告されています。

    実際、子供はお昼寝や夜就寝前になると、些細なことで癇癪を起こしたり泣き始めたり、逆にものすごく元気になったり……と、気分のコントロールがとくに難しくなっていることを実感しないでしょうか?「眠気」の影響は、精神状態にとり非常に大きいことが伺えます。

    連日積み重なった夜更かしや睡眠不足は、子供にとってあらゆる面でよくない影響を与えることは容易に想像できるでしょう。睡眠不足の精神状態がその子供の性格や人格形成にまで影響を及ぼしてしまうのではないかといった懸念に繋がります。

    とはいえ、毎日必ず同じ時間に寝かせるために、厳しく叱ってまで布団に押し込むことも考えものかもしれません。
    筆者には6歳の子供がおりますが、土曜(休日前)の夜だけは、いつもより1時間遅く寝ても良いことにしています。この時間は、平日に広げるにはなかなか難しいボードゲームを親子でおこなったり、子供の好きな映画を見たりと、家族のコミュニケーションの時間として設けています。

    その代わり、平日はきちんと決まった時間に寝ることに納得させ「次の土曜の夜はどんな映画を見ようか」という楽しい会話につなげることができています。こうして、健康に影響が出ない程度で「少しだけハメを外そう」の日を作ってもいいのかもしれません。

    早く寝かせる”だけ”でOK?注意したい子供の「睡眠障害」

    親としては睡眠時間に重きを置いた「睡眠不足」に注意が向きがちですが、子供の「睡眠障害」もまた、注目していただきたい項目です。子供の睡眠障害は大人と異なる症状が出ることがあり、また子供に限定した睡眠障害の分類がないので判断できないことがあります。

    しかし、4人に1人の子供は、睡眠に関連する何かしらの問題を経験するとも言われています。親の気づかぬうちに発生するこの症状に対し適切な治療をおこなわずに過ごしてしまい、大人になっても影響が残ってしまうおそれがあるので注意が必要です。

    国立精神・神経医療研究センター病院の亀井氏が、子供によくみられる睡眠障害として次のようなものを挙げています。

  • 不眠症
  • 睡眠関連呼吸障害
  • 過眠症
  • 概日リズム睡眠障害
  • 睡眠時随伴症
  • 睡眠関連運動障害
  • 聞いたことのあるもの、初めて聞くものもあるかもしれません。次の項目では、とくに子供がなりやすい、注意すべき睡眠障害についてくわしく解説します。

    睡眠関連呼吸障害「閉鎖性 睡眠時 無呼吸症候群」

    「閉鎖性 睡眠時 無呼吸症候群」は子供の睡眠障害の代表ともされており、子供のおよそ1〜3%の頻度でみられています。

    大人の場合は「肥満」が原因となっていることが多いこの症状ですが、子供の場合は肥満のほか、扁桃腺の肥大によっても発症します。とくに5~8歳は扁桃腺のサイズが大きくなるため注意が必要です。

    子供が苦しそうなイビキをかいていることで気付くことが多いのですが、いびきに加えて胸の一部が陥没する陥没呼吸や寝汗・頻繁な寝返り・おねしょ・朝起きるのが難しい……などといった症状が一つでもあれば、病院へ行って確認してもらいましょう。

    大人の場合、日中は過眠(居眠りなど)があることは周知のことですが、アメリカのミシガン大学Chervin(シャービン)博士らの研究によれば、子供の場合は眠気だけではなく、

  • 注意散漫
  • 攻撃的行動
  • 情動不安定
  • 学業成績悪化
  • 発達の遅れ
  • 多動性障害様症状
  • などがあることが報告されています。

    概日リズム睡眠障害

    これは、睡眠リズムがずれてしまって朝起きれない状態になる睡眠障害であり「体内時計の機能不全によるもの」とされています。

    子供の場合「睡眠相後退型」と「自由継続型」とで分類できます。「睡眠相後退型」は、夏休みなどに夜型の生活になって、朝起きられないといった症状。「自由継続型」は、毎日1時間程度遅れていくといった症状となります。

    思春期の発症が多くみられますが、小児期にも発症することがあり、これに一番強く起因するのが「光」です。朝起きたときにたっぷりと太陽の光を浴びるようにすることで改善されることが多いでしょう。
    とくに長期の休み中は、遅く寝て朝早くに起きれない生活になる子供が増えます。通常であれば数日かければ元の生活に戻ることができますが、一度発症した「睡眠相後退型」は、簡単に元の状態に戻すことは困難です。

    長期休暇にも夜更かしをせず、生活リズムを崩さないように注意し、朝はたっぷりと太陽の光を浴びるようにベッドの位置などを変えてみるのも有効です。

    《理想の睡眠》の定義とは?

    では「理想の睡眠」とはどういうものを指すのでしょうか。睡眠時間についてアメリカの睡眠医学学会(American Academy of Sleep Medicine)では、

  • 生後4~12ヶ月……12~16時間
  • 1~2歳……11~14時間
  • 3~5歳……10~13時間
  • 6~12歳……9~12時間
  • 13~18歳……8~10時間
  • としています。

    また、愛媛大学医学部附属病院睡眠医療センターが発行した「未就学児の睡眠指針」によると、成長に伴って睡眠のリズムが変わるとし、

  • 新生児期……16~20時間
  • 乳児期(生後3ヶ月)……14~15時間
  • 乳児期(生後6ヶ月)……13~14時間
  • 乳幼児期(1~3歳)……11~12時間
  • 幼児期(3~6歳)……10~11時間
  • 学童期(6~12歳)……8~10時間
  • 思春期(12歳~)……7時間台
  • といった数字を挙げていますが、これはおおよそ世界でも共通している理想的な睡眠時間となっています。

    新生児期には昼夜を問わない短いサイクルの睡眠・覚醒を繰り返し、次第に昼夜のリズムを持った睡眠へ以降します。その後、3〜6歳には昼寝をとらなくなり、10代後半から起床時間が遅くなって睡眠相が後退する傾向がみられるとしています。

    テレビなどでお聞きになったことのある方も多いと思いますが、22時~2時は「睡眠のゴールデンタイム」と呼ばれており「成長ホルモンが分泌される、睡眠にとって最高の時間帯」などと言われます。しかし実際には、寝ている「時刻」はホルモンの分泌に関係ないことが確認されています。

    スウェーデンのチューリッヒ大学llling(ルリング)博士の論文によると「成長ホルモンはノンレム睡眠の徐波睡眠時に顕著に分泌が促進される」と報告しています。「浅い眠り」とされているレム睡眠に対し、ノンレム睡眠は「深い眠り」の状態をさしますが、睡眠はステージ1~4とさらに分類され、とくに深い眠りであるステージ3〜4を「徐波睡眠」といいます。

    睡眠依存性の成長ホルモン分泌調整機能は、生後3ヶ月~4・5歳ぐらいに確立するともされており、乳児〜幼少期にかけて徐波睡眠がしっかりできるような状態をつくることが大切になってきます。

    ノンレム睡眠とレム睡眠は各90分サイクルとされており、途中で目覚めることなくぐっすりと眠り続けることがポイントです。睡眠の時間だけでなく、環境や質も、成長にとって大切なポイントとなることがわかるのではないでしょうか。

    我が子にとらせたい《理想の睡眠》に近づくためのコツ

    夜ぐっすり眠るような状態にするには、どのようなことをすると良いのでしょうか。心がけたい生活習慣や気をつけるべきことについてご紹介します。

    幼児期の「昼寝」は注意!

    新生児期の赤ちゃんは昼や夜の区別なく睡眠と覚醒を繰り返していますが、だんだんと夜長く寝るようになってきます。その後、お昼寝と夜寝の区別ができはじめ、お昼寝をしなくなってくるのが通常です。

    しかし実のところ、お昼寝をする子供・しない子供を比べた際、トータルの睡眠時間にはおおきな差がみられないのです。お昼寝を長くする代わりに、夜の睡眠時間が短くなっていることがみうけられます。
    午後に長いお昼寝をすることによって、夜寝る時間が遅くなってしまう、さらには次の日の起床時間が遅くなるなど、生活のバランスが崩れてしまうことが、様々な研究者や機関から指摘されているのです。

    日本の保育園では保育所保育方針に従って午睡の日課がありますが、小学生になって午睡が無くなることによって、睡眠習慣に悪影響を及ぼすことが江戸川大学の福田一彦教授らの研究によって明らかになっています。

    ただし、乳児期(3歳頃)までの子供は、日中十分に遊べば、お昼ご飯の後には眠くなるもの。無理に夜まで起こし続けることによって夕方に寝てしまうことがあれば、1,2時間の規則正しいお昼寝は必要です。この場合「まだ寝ているから」と寝かせ続けず、時間になったらきちんと起こしてあげるのがポイントです。

    親の睡眠習慣が子供に影響する

    日本では「川の字で寝る」という、欧米などではあまりない生活スタイルが根強く残っています。同じ部屋で寝ている場合、子供が寝ている間の状態を把握でき、睡眠習慣の形成をするのを助ける効果もあります。

    しかし、親や兄姉などの睡眠時間が遅いことから、寝ようとしないといった問題が多いのも現状です。そのため、親自身も早寝早起きの睡眠習慣を意識し、子供にとって良い習慣を確立することがポイントになります。

    とはいえ、微妙に歳の離れたきょうだいがいる場合、それぞれに合った就寝時間で寝かしつけをずらすのが難しいこともあるでしょう。上のきょうだいにもできるだけ早寝の習慣を心がけ「時間になったら布団に入る」という意識を自分で持たせるようにしつけていきましょう。

    「光」は睡眠に影響大!

    「睡眠障害」に関する章でも記述しましたが、外界からの光は体内のリズムに大きな影響を与えます。そのため、夜に光を浴びてしまうと、睡眠のリズムが崩れてしまうのです。

    これは、眠りを助けるホルモンである「メラトニン」が、光の刺激を受けることで分泌が妨げられてしまうためです。
    子供は大人より体が小さく、光を感じやすくなっています。とくにスマートフォンやタブレットは顔から近いところでみるため、より多くの光を感じ取ってしまうので、おやすみ前のデバイスの使用は是非とも避けていただきたい習慣です。テレビやゲーム機なども、脳にとって刺激となるので同様に避けるべきでしょう。

    夜には部屋をしっかりと暗くし、朝は太陽の光をしっかりと浴びてメリハリをつけることが重要です。

    まとめ

    人間にとって大切な睡眠は、子供の成長にとっても大変重要なことです。研究結果などをもとにご説明してきたように、睡眠時間が短いことでさまざまな影響が起こります。睡眠時間だけでなく、子供特有の睡眠障害にも注意する必要があるため、ぜひ子供の睡眠状態を確認しておきたいものです。

    【参考・引用・関連リンク】
    ■「睡眠とメンタルヘルス―睡眠科学への理解を深める」上里 一郎(監修),白川 修一郎(編集) ゆまに書房

    ■OECD(Gender data portal 2019)
    https://drive.google.com/file/d/1h-aBY3VMoAcggcApuHBfyYSGdVQo0zf9/view?usp=sharing
    平性22年度幼児健康度調査報告
    P12 10時以降に寝る子供
    https://www.jschild.or.jp/wp-content/themes/jschild-html/dist/pdf/2010_kenkochousa.pdf

    ■幼児期の短時間睡眠は肥満のリスク因子
    Sleep duration and incidence of obesity in infants, children, and adolescents: a systematic review and meta-analysis of prospective studies.
    https://pmc.carenet.com/?pmid=29401314

    ■関根道和、鏡森定信(2007)子どもの睡眠と生活習慣病–寝ぬ子は太る (あゆみ 睡眠とメタボリックシンドローム)Child sleep and non-communicable diseases、医学のあゆみ223(10)、833-836 富山大学
    https://ci.nii.ac.jp/naid/40015717226

    ■睡眠時間の短い子は成績が悪い
    Sleep schedules and daytime functioning in adolescents
    ザ・ホリー・クロス大学 Amy R. Wolfson 教授 ウォルフソン
    https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9768476

    ■子供の睡眠  亀井雄一(2012)、保険医療科学61, 11-17 
    https://www.niph.go.jp/journal/data/61-1/201261010003.pdf

    ■未就学児の睡眠指針
    https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4877308/

    ■より良い睡眠のためのポイント
    https://www.mhlw.go.jp/content/000375711.pdf

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