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英語は、何歳から学ぶのがベストなのでしょうか?
英語教室のパンフレットなどを見ると、0歳からレッスンをスタートしているところもあり、「日本語すら覚える前から英語教育なんて、本当に必要なの?」とも思えてしまいます。
今回「子供の英語学習は早ければ早いほうが良いのか」について、様々な研究結果から検証してみたいと思います。またそこから、英語が効率よく身につく勉強法や、英語学習への親の関わり方が見えてきました。
英語学習は早ければ早いほうが身につく?遅れると覚えにくいもの?
英語学習は早いほうが良いのか、それとも日本語力がついてからの方が良いのかー。長年さまざまな意見が飛び交っていますが、実は、明治時代からこの論争は続いています。
明治時代には西洋の文化や知識を学ぶため、一部の小学校では英語授業がスタートしました。しかし「日本語を習得する途上にある子供にとっては弊害になる」と、当時の英文学者が批判していたという事実も残されています。
言語の習得や第二言語は、ある時期を越えると十分なレベルまで習得することができなくなるという「臨界期(critical period)説」というものが、1959年、ペンフィールド(Penfield)博士とロバーツ(Roberts)博士による研究において唱えられました。脳の神経回路が、一定期をすぎると”柔軟さ”を失ってしまうというのです。
この「臨界期」は5歳〜13歳までに存在していると言われており、それ以降はネイティブ並みになることは著しく困難であるとされています。しかしこの説は、一定の説得力は持つものの決定的なエビデンスに欠けるというのが現状です。
また、アメリカのペンシルベニア大学教育学大学院のバトラー後藤裕子准教授(教育言語学)による著書「英語学習は早いほどよいのか」によると、英語を「外国語」として学ぶ場合と、幼少期に英語圏へ移住した子供が学ぶ場合とでは、成果が異なるという結果が記されています。
ネイティブに囲まれた英語圏での研究結果は多数あるものの、日本語環境下では「良質で大量の英語のインプット」がない限り、むやみに早期学習してもあまり効果が得られないとしているのです。つまり、普段の生活における日常会話で英語を使用していなければ、赤ちゃんのときから英会話教室に通ってもさほど意味がないということになるのです。
たとえば、カナダの在留邦人児童が、入国時に英語読解力を年齢別でテストした結果があります。英語を母国語としている人の平均点に一番はやく追いついたのは、3歳未満〜6歳よりも、7〜9歳というグループであるという結果が出ています。
母国語の「読み書き」といった基礎ができているので、第二言語の習得も効率的にできたのではないか、と推測されているのです。
幼ければ幼いほど「生きる」ための最低限の知識を自然と手に入れていきますが、人とのコミュニケーションなどについては、幼児期以降の学習に大きく左右される要素もたくさんあるのではないでしょうか。
英語を学ぶ環境や本人の特性にもよると思いますが、必ずしも英語学習が早ければ早いほうが身につくというわけではない、ということがわかります。
最終的な英語の習得速度は、大人も子供も変わらない?!
アメリカのマサチューセッツ工科大学のハーツホーン教授から発表された「A critical period for second language acquisition: Evidence from 2/3 million English speakers」には、英語を母国語とする方・そうでない方、計約67万人を調査した研究結果があります。
これは、Facebookで30万回シェアされたクイズ「Which English?」というもの。トータル67万人が10分間で出来るクイズとして、Web上でデータを収集しました。英語のネイティブと非ネイティブ(第二言語)と区別して調査をおこなっており、世界中から得られた多くのデータを元に分析しました。
これによると、
という結果が出ています。
これは、ネイティブまで追いつくことは不可能だったとしても、ネイティブに近いところまでは追いつくことができるーということが実証された結果となります。あくまでも第二言語として習得するのであれば、十分な結果として受け取ることができるのです。
「17~18歳頃から学習能力が下がる」という点については、正確な理由については不明とされていますが、様々なことに興味を持ちはじめる多感な年齢なのが原因ではないかとしています。学習に向けるパワーがさまざまな分野へと分散してしまうため、英語学習が疎かになったのでは、と考えられているようです。
また、自ら興味を持って自発的に英語を学んだ場合、たとえ成人後であっても、嫌々勉強していた人よりも、しっかりとした英語力が身についていることも結果として示されています。
さらに、全ての年齢において、英語を学び始めてから7年後ぐらいには、約9割ほどの英語理解力まで追いついているそうです。これは、学習時間に比例して英語はしっかりと身につくという結果です。
このように、英語学習をスタートする年齢について言えば、幼児期からの方がよりネイティブに近づくことができるかもしれません。しかし、学習をスタートした年齢に関係なく、必要な時間を学習に割くことによって、ネイティブに”近い”英語力は身につけることはできる、と言えそうです。
「発音」と「リスニング」は、早く始めたほうが◎
アメリカ・アラバマ大学のフレッジ(Flege)博士は、ドイツのキール大学が提唱した「連続モード(Continuous mode)」と「断定モード(Categorical mode)」という言葉を用いて、《発音能力と年齢の関係》を説明しています。
「連続モード」は、細かい発音を聞き分けることを可能にするため、音の強弱や音質の違いなどを認識する際に用いる概念です。一方「断定モード」は、音の範囲内での違いではなく「big」と「pig」といった「b」と「p」の違いに集中する概念。
フレッジ博士は、幼い子供は「連続モード」に頼って第一言語を学習し、7歳ぐらいまでに音のカテゴリー分けをおこなって、発音の体型体系を構築するとしています。7歳以降には発音体系が確定してしまうため、「断定モード」にシフトするというのです。
大人が第二言語を学ぶ時にぶつかる「発音」の壁ですが、すでに構築済みの言語の発音体系を元に、第二言語の発音を受け止めようとすることが要因というわけなのです。つまり日本人であれば、英語を脳内で自然とカタカナ変換(日本語の発音)にしてしまうのです。
低年齢から正しい英語を聞いていると、母国語を習得するのと同じように習得することができるというのは、発音体系の構築に原因があったわけです。
そうすると、大人であっても「連続モード」に接触が可能であれば、第二言語の発音習得も容易にできるという可能性が出てきます。
子供に英語を学ばせる際におさえたい、6つのポイント
言語習得には様々な要素が関係していることが分かります。単純に英語の垂れ流しをしたり、遊びだけで習得しようとするのは得策とは言えないでしょう。ここからは、子供に英語を学ばせる際におさえておきたいポイントを見てみたいと思います。
10歳以下は「ペーパー試験よりコミュニケーション」を!
学習の成果を確認することはとても大切なことではありますが、ペーパー試験の勉強ばかりをしていると、発音や実際の会話に使える学習がおろそかになるでしょう。さらに「勉強!」というイメージが強くなり、英語嫌いになってしまうおそれも懸念されます。
低年齢でも受験が可能な英語の試験では、スピーキング能力を測定できるものもあります。このようなテストを利用しながら、コミュニケーションを大切にした英語学習をするのがおすすめです。
「動画」で学ぶと忘れにくく、使いやすい!
日本での日常生活では、英語に触れる機会があまりありません。そこで、英語のアニメやドラマを、英語字幕で繰り返し観るなど、動画を使って学ぶのが良いでしょう。
1日15分くらいの短いものでOKなので、継続することがポイントです。
言語がコミュニケーションの為のツールなのであれば、当然文字だけの学習では、なかなか実際に使えるようにはなりません。相手の表情や口の動き、身振り手振りなど、実際の場面や状況に応じた表現を目で見ながら覚えることで、より忘れにくく、使いやすい英語というものが自然に身についてきます。
単語は「絵」と結びつける
音感は早いほど良いため、低年齢で英語を学習する際には、映像と単語を結びつけて覚えておくのがポイントになります。
たとえば、椅子やテーブルなど日常的に目にするものを実際に見ながら教えることで、自然とその単語が口に出せるようになります。また、本や映像を使って、動物の名前などを次々に覚えていくと、年齢があがった際に楽に学習が進む傾向があります。
文法よりも正しい「発音」を
幼児期や小学生の頃は、文法よりも日常的な表現や単語を、正しく発音できるようにしておくことがポイントです。
日本では、中学生など思春期になると学校の授業において正しく発音をすると、笑われたり、白い目で見られたりしてしまうことがあります。気にしてわざと下手な発音にする子も多いですよね。
気にしないのが一番ですが、正しい発音を「恥ずかしい」と思わない年代に身に着けておくのがおすすめです。
子供一人ひとりにあった学び方
子供にやる気がない場合には、無理して学習させるのはおすすめできません。学びの面白さに目覚めるきっかけやタイミングは、人それぞれです。親のタイミングで学習を進めてしまうと、子供にとっては苦痛以外の何ものでもなく、逆に英語が嫌いになってしまうおそれもあります。
「◯歳だからこれをやらせないと」といった一般論や他人の学習状況にとらわれないことです。
「ローマ字を習う前に」アルファベットを覚える
学校では、ひらがな・カタカナと覚えると、次にローマ字を習い始めます。ローマ字を習ってしまうとどうしても「ひらがなの発音」に当てはめて考えるため、発音で子供が混乱してしまうことがあります。
そのため、ローマ字を習う前にアルファベットを覚えるのが良いでしょう。また、アルファベットを覚えるときは「アブクド発音」と呼ばれる実際のアルファベットの発音で覚えるのもコツです。
英語を学ぶ子供との、親の適切な関わり方
「親の私自身は英語が苦手だから、英語学習のサポートが大変」と思う方も多いと思います。しかし「子供と一緒に学んでいく」という姿勢こそが、実はとても大切なんです。
親の学ぶ姿には、とても大きな影響力があります。親が楽しそうに学んでいる姿をみると、子供も自然と「何がそんなに面白いんだろう」と興味を持つでしょう。それは、幼いほど強くなります。一緒に本屋さんへ行って本を選んだり、図書館に行って本を借りたりするなど、大人と同じ行動をさせてあげるのもポイントです。
そして、子供が疑問に思った事について一緒に考えたり、説明したりすることも大切。考える力を育む事ができ、そうすることで、学ぶ楽しさを身につけることができるようになっていくでしょう。
日本人の英語が通じない大きな理由として、発音の悪さではなく「声の小ささ」が指摘されています。英語が苦手であっても、親が毎日英語を声に出して読み聞かせをすることで「英語は声に出すことが大切」という感覚を学んでいくことができるでしょう。
さらに、英語が苦手な人ほど「子供には英語を得意になって欲しい」という思いが強い傾向があります。「自分が英語を話せたらよかったな」という気持ちを、子供への期待に変えてしまうのです。その場合、どんどんレールを敷いて、学ばせようと強制してしまうことがあります。
親ではなく子供を主体として、どんな性格で何に興味があるのかを把握し、学ぶ環境を整えてあげるのがポイントです。
また「英語を学びたい」というきっかけを与えてあげるのも重要です。英語を学ぶこと自体が目的ではなく、英語が「なにかを達成するための手段」になると、楽しく勉強することができるでしょう。ディズニーやピクサーの映画を英語で見たい、海外プレイヤーと一緒にオンラインゲームを楽しみたい、というきっかけでももちろんOKです。
子供が何歳であっても、英語を楽しく学べる環境を整えてあげるのがベスト!
この記事では様々な研究結果等を見てきました。子供の英語力にネイティブレベルを求めるのであれば、より低年齢の頃から英語漬けの毎日を送れる環境が必要でしょう。
しかし、年齢があがってから勉強し始めた場合でも、十分にネイティブに近いレベルまでは到達できることも確認されています。大人になっても、習得に必要な時間さえかければ、まったく問題なく英語での生活を送ることができるレベルになれます。
筆者の場合、学生の間、英語は赤点ギリギリな状態でしたが、大人になってから会社で半年海外ホームステイする研修があったり、事業所内で外国人講師の英語講習があったり、業務で毎日英語を使っているうちに自然に身についた経緯があります。
自らやった英語学習は、大人になってからのSkypeオンライン英会話ぐらいですが、仕事で英語を使えるレベルにはなっています。
幼少期は、まだ自発的に勉強をすることが難しいため、親との関わりがキーとなります。英語が嫌いになってしまうことは一番避けたいもの。意欲的に楽しく英語が学べ、効率よく英語を身につけられるような環境を整えてあげることに、親としては注力したいところです。
子供の物事を吸収するスピードに驚かされることがあります。英語を必要とする環境や、英語を学ぶ目的がはっきりすれば、自ずとどんな形であれ学んで行くことでしょう。インターネットが当たり前になり、英語学習のためのアプリやオンライン教材もたくさんあります。外国人と接する機会も増えました。一昔前に比べれば、格段に英語を学ぶ環境は整っています。英語、英語と親自身が必死になるよりも、子供が英語に対して抵抗感を持たないように、また英語を学び続けられるモチベーションやその意味を与えてあげることの方が必要なのかもしれません。
【参考・引用・関連リンク】
『英語は何歳からがいい?明治から続く論争』 EPUB版著書 朝日新聞(伊藤和貴、岡雄一郎、刀祢館正明)
『10歳から身につく 問い、考え、表現する力 ぼくがイェール大で学び、教えたいこと』 斉藤淳(NHK出版新書)
『ほんとうに頭がよくなる 世界最高の子ども英語』 斉藤淳 ダイヤモンド社
親世代とは事情が変わった 英語編 PRESIDENT FAMILY
https://j-inst.co.jp/wp-content/uploads/2014/12/2014-06-President-Family.pdf
James Emil Flege (1995) Factors affecting strength of perceived foreign accent in a second language, Journal of the Acoustical Society of America, 97, 3125-3134
Hartshorne, J. K., Tenenbaum, J. B., & Pinker, S. (2018). A critical period for second language acquisition: Evidence from 2/3 million English speakers, Cognition 177: 263-277
Bongaerts, T., Suueren, C., Planken, B & Schiles, E. (1997). Studies in Second Language Acquisition, 19, (4), 447-465.
佐々木愛子,左合治彦ら(2018):日本における出生前遺伝学的検査の動向1998-2016,日本周産期・新生児医学会雑誌2018;54:101-107
Sekiguchi M,Sasaki A et al:(2017). Impact of the introduction of Non-invasive pretanal genetic testing on invasive tests:57:35-36