目次
「近頃の○○は ヾ(。`Д´。)ノ彡」という言い方をしたりしますが、近頃の野菜は、ずいぶんと栽培の様子が変わってきているようです。
いかにこれまで、野菜に対して無知で過ごしてきたかという事を思い知らされました・・・
我々はただ野菜を摂っていれば健康にいい!と単純に考え過ぎていたのか、農作物の在り方が戦後大きく変わり続けています。
今回の話は、農業関係者の方はよく知っている話かもしれませんが、一般にはあまり知られていない話です。
私たちがスーパーで買って食べている野菜の多くが、一代雑種の「F1(ハイブリッド)」というものになっています。また、家庭菜園を楽しむためにホームセンターで購入する種も「F1種」などと書かれています。
このF1種という野菜は一体どんなものなのか?
その前に、まず普通の(近年は普通ではなくなったが・・・)昔ながらの「固定種」というものがどんなものかみてみると・・・
毎年、できた作物から種を「自家採種」し、少しずつ時間をかけて品種改良を行ってきたもので、地域の土地に適した形で、年月をかけて形質を固定化していきます。
形質が固定されている為、できた種を翌年に蒔けばまた同じ形質をもった野菜が収穫できます。生命の多様性はしっかりと残っているので、形や重さが不揃いだったり、生育速度に差があったりしますが、風味豊かな、味の濃い、とてもおいしい野菜になります。
しかし、この「固定種」は大量消費の時代の流通には向かない為、昔ながらの野菜は減り、F1種へ移行していくことになります。
「F1種」とは、どんなものなのか作り方を見てみましょう。
例えば、ナスやトマトは自分の雄しべの花粉で自家受粉します。これでは、親世代と同じ形質のものしか取れませんので、求める形質をもつ雑種を作ることができません。
そこで他の品種と交雑させます。
形が揃うように、また色のばらつきがないように、運ぶ際に崩れないように皮を厚くしたり、ある特定の病気の耐病性をもたせたりと、遠い系統の品種や、違う野菜との交雑が行われます。
交雑させた1代目(F1)は、メンデルの法則に従って優性だけが現れます。昔学校で習ったあれです!
【参考:メンデルの遺伝の法則】
http://www.tmd.ac.jp/artsci/biol/textbook/genetics.htm
遠い系統の花粉をつけることで、雑種強勢(ざっしゅきょうせい)が働いて、1代目の形質は、目的とする都合の良い優性形質が得られます。
ただ、自然に任せていたら自家受粉されてしまい、思うような野菜が得られないので、「除雄(じょゆう)」という作業を行います。字からも分かるように雄しべを人為的に取り除いてしまうことです。そして、雌しべが受粉可能になるときに、別品種の花粉をつけてやるというわけです。
(※F1種を作る方法は、何種類かあり、自分の花粉で自家受粉することを嫌う菜の花などのアブラナ科の植物には、ハウス内の二酸化炭素濃度を通常の100倍以上に上げて、植物の生理を狂わせ、ミツバチを使って受粉させる自家不和合性(じかふわごうせい)を利用した方法などがあります。)
これらF1種の作物から採取した種を翌年利用することはできません。
なぜなら、F1世代を交雑すると、F2世代では隠れていた劣性形質が出現し、求めている形質を得ることができないからです。
その為、F1種は1度限りの収穫で、農家は翌年以降はまた種を種苗会社から買い続けなければなりません。
(※大手種苗会社の農薬とF1種、遺伝子組み換え作物とのセット販売が世界の農場に広がっています。この世界的戦略による悪影響の危惧が様々な場面で問題視されているようです。日本国内でも試験栽培が始まっており、後は国内法の整備が整うのを待つばかりと、モンサントなど大手種苗会社は、日本の農業にも狙いを定めています。)
F1種=悪 というわけではない
話をもどして、
このF1種は、農家や物流、一般消費者のニーズにうまく合致し、あらゆる野菜で普及してきました。F1だからダメだと完全に否定するものではなく、後に記すF1の作り方に疑念があるという捉え方が正しいと思います。
「揃い」が良いので、箱に詰めやすく物流コストが下がり、重さや形もばらつきがないので値付けしやすいなど、見栄え重視の消費者ニーズにもマッチしてきました。農家としても一斉に収穫できるため、畑が空き、次の作物を植えることができ、土地を効率的に使うことができるなど、メリットがたくさんあります。
では、このF1種にどんな問題が潜んでいるのか?
思い出してください。先ほど、「除雄」という作業を行い、人為的に雄しべを取り除くといいましたが、これがとても労力のかかる作業なのです。素人的に考えても、広い畑に咲いた花一つ一つを、手作業で除雄を行うと思うと気が遠くなります。
そこで近年利用が増えてきているのが、「雄性不稔(ゆうせいふねん)」という方法です。
この「雄性不稔」という言葉は、聞きなれない言葉ではありますが、不稔とは、雄しべや葯(やく)に異常があり、花粉を作れない又は花粉の機能不全を意味します。動物で考えると、つまり男性不妊・無精子症などに当たります。
そう、この雄性不稔F1種というものが問題視されているのです。
この雄性不稔の花は、1925年アメリカのタマネギ畑で見つかりました。
はじめから雄しべや葯に異常があって、花粉をつけないとなると、これまで行っていた「除雄」の手間が省けます。
このタマネギは利用できる!と、交雑を繰り返し、花粉の出ない雄性不稔タマネギを作りました。
この雄性不稔タマネギは自家受粉しないので母親役として使い、父親役として別系統の性質をもつ品種を近くに植え、ミツバチを使って交配すれば、お目当ての性質をもったF1タマネギの出来上がりというわけです。
この初めての雄性不稔F1タマネギが発表されたのが、第二次世界大戦中の1944年(昭和19年)でした。
その後、多くの野菜で雄性不稔株が見つかり、タマネギ、トウモロコシ、ニンジン、ネギ、ナス、テンサイ、ヒマワリ、シュンギク、レタス、シシトウ、インゲン、カリフラワー、ブロッコリー、大根、キャベツ、イネなどへと広がり、雄性不稔F1品種がつくられ、普及してきています。将来、市場の野菜のほとんどが、雄性不稔F1品種になる時代がすぐそこまで近づいています。
(※砂糖と言えばサトウキビ!と思ってしまいますが、実際の国内砂糖の主要原料は、沖縄のサトウキビが約2割程度で、残り約8割は北海道で栽培されている「テンサイ」です。
【北海道てん菜協会 「てん菜とは」】
このテンサイは世界的に雄性不稔のF1品種です。約50年前にアメリカの育種家オーエンが発見したたった一つの変異株に由来するものだそうで、その子孫をいまだに世界中で食べ続けていることになります。テンサイの搾り汁は、砂糖になり、残った搾りかすの繊維質は、インスタント麺の「つなぎ」に使用されたり、食物繊維入りと表記された清涼飲料水に入れられ、残らず利用されています。)
問題はここからです。
この雄性不稔株は、本来であれば遺伝子異常の形質であり、自然淘汰されるものです。人間はそれを逆手に取り、この遺伝子異常の作物を増やし続けていることになります。
雄性不稔はどうして生まれるのか?
では、このような雄性不稔はどうして発生するのでしょうか?
最近では、ミトコンドリア遺伝子の異常が雄性不稔を引き起こすことがわかってきました。
動物の場合でも、ミトコンドリア遺伝子の突然変異をマウスに導入すると、そのマウスは精子数が減少し、精子の運動能力が落ちて不妊症に陥ってしまうことが確認されています。
http://www.jst.go.jp/pr/announce/20061003/index.html
私たちの細胞一つ一つに、多い場合で数千個も存在すると言われるミトコンドリア。細胞のエネルギー生産になくてはならない存在です。
このミトコンドリアは、私たちの遺伝子とは別のミトコンドリアDNAを持っています。
このミトコンドリアDNAは、母系遺伝することが分かっており、父方のミトコンドリアDNAを受け継ぐことはありません。常に母方のミトコンドリアDNAが、子へと引き継がれていきます。雄性不稔F1種の野菜がどんどん普及するということは、男性不妊症のミトコンドリアDNAをもった野菜を量産することになります。
ミトコンドリアは、動物や植物はもちろん菌類などでも共通するものです。この異常なミトコンドリアDNAをもった野菜を、日々食べ続けて人体に影響がないという確たる証拠はまだありません。自然界に対する影響も、将来どのような形で現れるのかいまだ不明です。遺伝的形質というものは、じわりじわりと生命や生態系にまで影響を与えていくものです。
以前2006~2007年頃にかけて、セイヨウミツバチの大量失踪事件と言うものが話題になったことがあります。
「蜂群崩壊症候群(ほうぐんほうかいしょうこうぐん、Colony Collapse Disorder、CCD)」と呼ばれるようになったこの現象は、世界中で報告されています。不思議なことに、大量のミツバチの死骸は見つからず、まさにどこかに失踪してしまったというのです。
2013年になって、農薬の組み合わせが主な原因ではないかとの研究報告がなされています。
【ナショナルジオグラフィック ニュース「Journal of Experimental Biology」誌のオンライン版2013年2月7日付】
しかしこれで、大量失踪の謎が全て解き明かされたという、明快な原因解明には至っていないようです。
大量失踪したセイヨウミツバチは、主に巨大トウモロコシ農場で働くミツバチたちで、遺伝子組み換えや雄性不稔作物の受粉に利用されていました。アメリカでは、飼育されていたセイヨウミツバチの1/4~1/3が、突然いなくなったということから事の重大性が分かります。近代的な農場で働くセイヨウミツバチに、大きな問題が起きていることには間違いありません。
「タネがあぶない」の著者 野口勲氏は、男性不妊症との関係も指摘しています。
ミトコンドリアDNAに異常がある雄性不稔の蜜で育った女王バチは、世代を重ねるごとに異常ミトコンドリアの蓄積が閾値を超え、そして、生まれてきた雄のミツバチが精子を作れない雄ばかりになり、多くの働きバチたちは未来のない女王バチと巣を見捨て、新たな巣を見つけに飛び立ったのではないか。
また別の報告において、
ここ数十年の間に、男性の精子数が急激に減っているという事実があります。デンマークの科学者ニールス・スカケベック(Niels Skakkebaek)教授が、WHOの会議において、「過去50年にわたって精子の数が半減している」という報告を以前に出しています。
環境ホルモンによる影響や食生活の変化、ライフスタイルの変化等が言われ続けていますが、このミトコンドリアDNA異常の食物をとり続けていることも大きな一因ではないかとも考えられます。
そういわれると、確かに雄性不稔F1種が利用され始めたのが1940年代。高度成長と共にF1種が普及し、精子減少の傾向が顕在化してきたと考えることもできます。
あくまで仮説であり、想像の域を出ませんが、自然界への悪影響が人間にも何らかの影響を及ぼすのは当然でしょう。
今後、このような異常なミトコンドリアDNAを持った野菜がほとんどになり、さらには遺伝子組み換え作物も日本国内で認められ、入ってきている今、次世代の子どもたちに発生する影響は、まだまだ未知です。万が一将来、重大な悪影響が発覚した場合、取り返しがつきません。もうすでに、多くの作物で利用されているという事は、野菜ジュースはもちろん砂糖を使う清涼飲料水や、その他膨大な数の加工品まで、影響は甚大です。
我々子育て世代は、野菜などの食物に対するリテラシーを上げ、何を食べるか、どんな育成方法を選ぶか、を選択していかなければいけないと感じます。
「固定種」の種を絶滅させないためにも、地域の中小の農場を見直し、地元で昔ながらの野菜を作り、自家採種を続けることも今後ますます重要になります。
消費者側が世の中のおかしな方向に追従するのではなく、本当に安全な野菜を子どもたちに残していくべく、新たなニーズを発信していく必要に迫られています。
【参考・引用・関連リンク】
固定種の種は野口勲さんのサイトより購入できます。
→野口のタネ オンラインショップ
『ハチはなぜ大量死したのか』 ローワン・ジェイコブセン(著) 文藝春秋
野口 勲「ミツバチは、なぜ巣を見捨てたか?」
http://noguchiseed.com/hanashi/mitsubachi.html
ミトコンドリアゲノム変異が男性不妊の原因に
http://www.jst.go.jp/pr/announce/20061003/index.html
男性の精子数はなぜ減少するのか [海外メディア記事]
http://shin-nikki.blog.so-net.ne.jp/2010-04-27-1
http://www.independent.co.uk/news/science/out-for-the-count-why-levels-of-sperm-in-men-are-falling-1954149.html
交配種とそうでない品種とはどう違うの?※現在は削除されています。
http://www.h6.dion.ne.jp/~chusan55/hatena12/51hatena5.htm
ミツバチの失踪、農薬の組合せが原因か(ナショナルジオグラフィック ニュース)※現在は削除されています。
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20130215004
Image courtesy of FreeDigitalPhotos.net