生まれてくる子どもの性別というのは、時に大きな影響を社会に与えることがあります。
近年では、「産み分け」を実践する男女が増えています。後継ぎがいるので男でなければいけない、女の子は育てやすいと聞くから、親の個人的な好み・・・それぞれに理由はあるのでしょう。
少子化が進むにつれてこの傾向が強まります。生涯に産む子どもの数が一人という家庭が増えると、当然その一人の性別は大きな関心事になることも頷けます。しかし、一つの家庭や親族だけで見るのではなく、もっと大きな視点で見ると、非常に危険な状況を招くことが指摘されています。
現在その危険な状況に陥っているのが中国です。
ご存知の通り、中華人民共和国は人口の増加による食糧不足等の問題を回避するため、1979年に計画生育政策(一人っ子政策)を開始しました。中国人同士(漢民族同士)の夫婦に適用されたこの政策には、重い罰金や制裁が科されていた為、中国の国家統計局の報告では30年で4億人の人口抑制につながったと報告しています。
ただ、確かに人口抑制にはつながったものの、多くの弊害も出てくることになりました。その中でも今回取り上げたいのが、『人口の男女比』です。
夫婦一組で、子どもを一人しか産めない為、男の子をほしがる夫婦が多くなってしまったのです。後継ぎの男子という意識の強いことに加え、農村では働き手としても圧倒的に男の子をほしがる傾向が強い。その結果、超音波検査で胎児が女の子だと分かると、人工中絶されるケースが後を絶たなかったのです。
一人っ子政策から30年が過ぎた現在、多くの地域で規制緩和が行われ、条件付きで一人目が女の子の場合、第2子を産むことが認められるようになっていますが、人口グラフを見るといびつな男女比がはっきりと出てきています。
通常人口学的に新生児の正常な男女比は、女子100に対して、男子103~108程度となっています。
中国ではどうなっているのかというと、女子100に対して、男子119と大きな開きが出ています。さらに地域によっては女100:男130、女100:男192、なんて地域もあるらしく、非常に危険な状態なってしまっています。
何が危険なのか。
実は、1979年から始まった一人っ子政策以降に生まれた子供たちが成人し、20代から30代前半になっていることです。つまり、結婚適齢期に入ってきており、結婚できない男子が数千万人単位であぶれてくる事態になっています。(2020年にはその数が3700万に及ぶと予測されています。)これに伴い、結婚詐欺や女子の誘拐事件、さらには女子の人身売買が頻繁に発生することになってしまいました。
また、治安の悪化も懸念されています。イギリスでのある調査では、青年犯罪者の累犯可能性を予測する最も確実な尺度は、刑期を終えた後に長期的なパートナーを得たかどうか、だそうです。今後、多くの不満を抱えた若者が国内の治安に影響することはもちろん、国内がダメなら国外へ機会を求めるという流れも出てきています。
少子化で、少ない若者が多くの高齢者を支えなければならない人口バランスの問題に加え、人口の男女比に潜むリスクも軽く見るわけにはいかないようです。
今の子どもたちが将来成人したとき、どのような人口比率になり、どんな社会になっているのか、気になるところです。
【参考】
『友達の数は何人?』 ロビン・ダンバー 著 発行:インターシフト
■世界の統計 総務省統計局
http://www.stat.go.jp/data/sekai/index.htm