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2021年からの大学入試内容が変わることが、このたび文部科学省から発表されました。これまでの過去問を暗記し、マークシートで4つの回答から選択していくだけの試験勉強から変化し「読解力」や「判断力」などが問われるようになるのです。
より「人間力」「総合力」を試される試験内容に立ち向かうため、私たち親が子供にしてあげられることは一体どんなことでしょうか?
はじめに:センター試験の「歴史」
独立行政法人「大学入試センター」が実施しているセンター試験は、約50万人以上が毎年受験しています。平均点が6割程度となるような問題設定がなされており、1979年度に国立大学の「共通第1次学力試験制度」として導入されました。
それまでは、高校での学習範囲を逸脱した難問が出題されることもしばしばあったため、当時の文部省主導によって、高校での学習範囲で回答できる共通の試験が考案されたのです。
第2次試験は各大学による入試選抜として使用されていましたが、1989年度に廃止。現在のセンター試験に移行しました。全問マークシート式で採点がしやすいという利点もありますが、デメリットとして「思考力」や「判断力」といった部分が測れないことをたびたび指摘されていた事実もあります。
時代の変化に伴ってー「アメリカ式」の内容にシフト?
今回、変更になる大学入試は「アメリカ式」を取り入れた試験方法になるともいわれています。そこでここからは「アメリカでの大学入試制度」について触れていきます。
アメリカでは進学適性試験(SAT・ACT)に加え、高校の成績・小論文(Personal Statement:志望理由、エッセイ等)・推薦状といったものが採用されており、日本の「AO入試」に近い制度がメインとなっています。
「SAT」とは”Scholoastic Assessment Test”の略であり、読解力や筆記・数学がメインの試験です。「ACT」は”American College Testing Program”の略で、英語・読解力・エッセイ・数学・そして科学がメインとなります。
それぞれ得意とする方を選択する人が多く、1年に6回ほどの試験が開催されています。
高校の成績は1〜3年すべてが見られ、スポーツや芸術面、社会奉仕などの活動面も非常に重要視されており”筆記試験さえクリアしていれば受かる”というわけではないようです。またアメリカでは、特定の分野に縛られずに学ぶ「リベラルアーツ教育」の制度も充実しており、大学に入学してから自分の学びたい分野への転向などができるのも特徴です。
アメリカ方式の大学試験は、必ずしも「成績が良くて筆記試験も高得点でなければ、希望の大学に入れないというわけではない」ため、自分の得意なこと(スポーツなど)で上位の大学へ入学することは可能です。
しかし、アメリカの大学入学は”入学後”に求められることが非常に厳しく、卒業するのが大変です。スポーツで大学に入学したとしても、成績が悪いと試合に出ることも許されません。
逆に、日本の大学は入学するのがとても大変で、卒業するのは比較的楽だとも比較されており「日本の大学にアメリカ方式を安易に採用するのは危険だ」と指摘している人もいます。
どう変わる?2021年からの大学入試、3つのポイント
2021年からの大学入試は、今までの試験とどのように変化していくのでしょうか。具体的な設問についてはまだ未確定ではありますが、求められている能力や重視される項目についてご紹介します。
※【追記】
教育改革の基本方針は維持しながらも、様々な問題点が指摘され、2021年(令和3年1月の大学入学共通テスト)からの英語民間試験の活用や、記述式問題の導入は見送られました。
■2019年11月1日 英語民間試験導入の見送り発表
文部科学大臣のメッセージ「受験生をはじめとした高校生、保護者の皆様へ」
https://www.mext.go.jp/content/1422381_01.pdf
■2019年12月17日 記述式問題の導入の見送り発表
「正しい答え」ではなく「理論的な思考」が求められるように
今までは「過去問」を重視した試験勉強がメインとされていましたが、これからは「総合的な学力」が必要になってきます。正確な答えを求めるということよりも、論理的な思考が求められるようになるのです。
また、今までのマークシート式の問題に記述式が加わります。国語では80~120字程度で3問ほど、マークシート式問題とは別の大問で出題。数学は数学Iの範囲で、3問程度がマークシート方式と混在して出題されます。今まではマークシートで選択するだけでよかったものが、判断の理由や根拠などを回答する必要が出てきます。
それゆえ、根本的な出題の”意図”や解決方法などを正確に理解し、そして理論的に文章を組み立てて回答する力が求められるようになるのです。
さらに英語では、4技能(読む・聞く・話す・書く)が評価されるようになります。民間事業者等によって実施されている英語の検定試験を参考にした構成になっているため、文法や語彙といった「暗記」がメインとなる部分よりも、より実際に英語を使う場面に沿った出題が多くなる傾向があるでしょう。
つまり、文章の流れなど、しっかりとした読解力が必要になってくるというわけです。
コミュニケーション能力が重視される
英語では、グローバル社会で求められるコミュニケーション能力に着目し「読む・聞く」といった従来の試験に加え「話す・書く」が追加されます。
出題に関しても、実際にコミュニケーションがある場面や状況の設定に沿って展開されるため、主語の使い方など、よりネイティブに近い会話に沿った問題文が採用されます。十分に会話の流れを理解し、自然にそのまま会話に入れるようなスキルが求められるようになるのです。
また、リスニングが英語検定試験と同じように「1回読み」になるなど、一度でしっかりと理解できる耳を持つ必要も出てきます。
個々の思考力や判断力が図られる!
「記述式」の問題が国語と数学に追加されます。
国語では広報資料や契約書といった実生活に密着した題材を使った問題となっており、勉強以外での社会的な知識をもとに、状況をしっかりと見極めて判断したり、考えて記述する能力が求められます。
数学では、問題解決の”方法”を記述することで、判断力や思考力などをより正確に図ることができるのです。
さらに、2024年からは地歴・公民、理科といった他の科目へも記述式が展開されていく予定ですので、日頃から思考力や判断力を鍛えておく必要がでてきます。
親としては心配も…。新しい入試方法に「問題点・課題」はないの?
今回の改変によって、以前から指摘されていた「AO入試」や「推薦入試」についても変更がおこなわれます。
「AO入試」や「推薦入試」はある分野に特化していた子供などが選択していた入学方法でしたが、学力不問とすることで”知識のかたより”があることが指摘されていました。そのためAO入試や推薦入試であっても、学力試験を必須化し、小論文や口頭試問などといった”学力”もしっかりと確保しなければ、合格できない仕組みに変わっていきます。
将来の見通しとしてAO入試や推薦入試を予定していたとしても、しっかりと基礎学力や論文の力をつけるなど事前の対策が必要になるでしょう。そのため、スポーツに励み優秀な成績を残していたとしても、しっかりと学習をする時間を設けなければならなくなるのです。
子供の勉強に上手に寄り添うために。これからの学習法を知りましょう
過去問重視・暗記メインであった今までの学習法から、どのような学習法へと考え方を変えなければならないのでしょうか。
これからの受験勉強に必要な学習法を取り入れ、よりスムーズに受験対策をおこなえるよう、3つの考え方をご提案します。
「復習」中心から「予習」中心にシフト
これからの受験勉強には、問題をしっかりと読んで解くための「読解力」が必要になります。そのため、事前に予習をしておくのは大変有効です。予習をすることで、授業ではっきりと内容を理解し、そして問題を解くときにはしっかりと問題文を読み解くことができます。
予習では難しい問題を解く必要はなく、理論的な部分などをしっかりと「把握しておく」ことがポイントです。予習でわからなかった答えを、授業で明らかにするといった考え方でも良いでしょう。
「応用」問題よりも「基礎」問題を
暗記した公式や単語を思い出すだけでは、これからの大学入試では点数が取れなくなってしまいます。問題を解決に導くための「ひらめき」が重要になってくるのです。つまり、基礎学力を十分にそなえた上で、問題文を読み解く必要があります。
センター試験では、高校で学習する分野を大幅に超えた難問は出題されません。そのため、幅広い分野・教科による基礎力を十分に身に着けることがポイントになります。
わからないことはそのままにせず、基礎だけでも良いのでしっかりとわかるまで念入りに勉強する姿勢を身に着けておくと良いでしょう。
「家庭教育」の重要性を、保護者が再認識しましょう
「読解力」や「判断力」などは、一朝一夕で身につく能力ではありません。幼いころからの家庭教育がキーです。
幼少期から家族との会話を十分におこなったり、また読書などの習慣も役立つでしょう。相手の言いたいことや本に書いてあることについて考察するとき、日常的に「読解」するスキルを身に着けることができるのです。映画鑑賞なども、演出や描写を紐解くときに「洞察力」を磨く手助けとして有効でしょう。
文字が書けるようになったら、思ったことを文字に起こしてみることもポイントです。他の人が読んで伝わるように考えて書き起こすことにより、順序立てて理路整然とまとめる「小論文」のための基礎が身に付きます。
また、知的好奇心を高めて「学習の意欲」を持たせるのもおすすめです。例えば、博物館などへ行って、遊びながら不思議な現象を体験・見学することで、知的好奇心が喚起されます。今まで学んできた知識があればあるほどより多くの好奇心が生まれますし、さらにそこで学んだことは記憶に残りやすいでしょう。
こうした「豊かな経験」の繰り返しが、これからの勉強には必要になっていくのです。
高校生でもスタート「学びの基礎診断」対策
平成31年度(令和元年度)から「高校生のための学びの基礎診断」というものの利活用が開始されています。
これは「高校生に求められる基礎学力の確実な習得」「学習意欲の喚起」をはかるため、文部科学省が一定の要件を示し「民間の試験」を認定する制度です。これにより、高校生の基礎学力の定着に向けた”PDCAサイクル”の取り組みを促進していく目的があります。
”PDCAサイクル”とは「Plan(計画)」「Do(実行)」「Check(評価)」「Action(改善)」という品質管理などで使われる技法のひとつでしたが、学生のうちからこのPDCAを習慣とすることで、同じミスを繰り返さなくなり、目標達成に向けよりスムーズに進めることができるような思考へと培っていくというものです。
民間の試験を認定するにあたる「認定基準」は、出題傾向として、知識や技能を問う問題に加え、思考力・判断力・表現力等を問う内容であること、記述式の問題があることが条件となっています。
そのため、各高校によって日々の授業や定期考査、実力テスト等を活用しつつ、基礎診断(国語・数学・英語の3科目テスト)を取り入れて学習を評価することになります。
たとえば平成30年度の認定ツールとして認められたのは、国語なら”公益財団法人日本語漢字能力検定協会”による「文章読解・作成能力検定」や、”株式会社ベネッセコーポレーション”の「Literas 論理言語力検定」などが挙げられます。
数学では、”公益財団法人日本数学検定”の「実用数学技能検定」、”株式会社ベネッセコーポレーション”の「ベネッセ数学理解力検定」。
英語は、”株式会社教育測定研究所”による「英検IBA TEST C 4技能版」、”ケンブリッジ大学英語検定機構”による「ケンブリッジ英語検定」、”株式会社Z会ソリューションズ”による「英語CAN-DOテスト」、”ブリティッシュ・カウンシル”による「Aptis for Teens」などです。
3教科(国語・数学・英語)では、”株式会社学研アソシエ”による「基礎力測定診断」、”株式会社ベネッセコーポレーション”による「進路マップ基礎力診断テスト」や「総合学力テスト」、”株式会社リクルートマーケティングパートナーズ”による「スタディサプリ 学びの活用力診断」などが挙げられています。
これらは全国学力調査とは異なり、すべての高校が受ける必要はありません。また「2022年度までは結果を大学入試に使わない」としていますが、その後どうなるかは未定です。
高校生から始まるこの外部テストのために、入学前にあたる中学生頃から、思考力や判断力・表現力などを意識して強化していく必要がでてくるとも言えます。
まとめ
「暗記」と「過去問題」を重視した学習内容からシフトし、身に着けた知識を総合的に発揮できるような学習法が必要になってきます。
論理的思考、判断力や読解力・表現力の向上については、高校生になって急いで訓練をスタートしてもなかなか身に着けることの難しいスキルです。できるだけ幼い頃からの積み重ねが大切になってくるのではないでしょうか。
「勉強しなさい!」と押し付けるような教育よりは、のびのびと知識を好奇心とを伸ばしていけるような場を提供し続けるなど、親として適切にサポートしていきたいものですね。
【参考・引用・関連リンク】
アメリカ大学入学試験の概要
https://www.kantei.go.jp/jp/kyouiku/3bunkakai/dai3/3-3siryou4.html
イギリス大学入試の概要
https://www.kantei.go.jp/jp/kyouiku/3bunkakai/dai3/3-3siryou5.html
日本以外の大学入試について
https://gakumado.mynavi.jp/gmd/articles/22444
河合塾
https://www.keinet.ne.jp/dnj/21/20kaisetsu_02.html
大学入試センター
https://www.dnc.ac.jp/daigakunyugakukibousyagakuryokuhyoka_test/index.html
※追記:大学入試英語成績提供システムの導入延期に伴う令和3年度大学入学者選抜大学入学共通テストの出題方法等について
https://www.dnc.ac.jp/news/20191115-01.html
※追記:大学入学共通テストの記述式問題の導入見送りについて
東進
https://www.toshin.com/parents/2_5.php
学習法
https://manabi-with.shopro.co.jp/manabico/2020-01latter
高校生のための学びの基礎診断 文部科学省
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kaikaku/1393878.htm