栄養バランスにすぐれた料理を口にし、家族みんなで囲む食卓は理想的な光景です。
幼少期の食事のあり方は、子供の発育にとってどんな影響があるのでしょうか。食育に関するさまざまな研究をもとに、子供の発達に影響することが判明しました。

この記事では事例を交えて、食事のあり方・そして子供への影響などについてご紹介します。

あなたの理想の食事風景は?「理想と現実の差」に悩む保護者

 
子供のころの食生活や食事のあり方が、好き嫌い(偏食)や味覚の発達、さらには人格形成にまでも影響があるということは広く知られています。「サザエさん」ちのように、家族みんなで規則正しく同じ時間に食事をとり、家族の会話が弾む温かい食卓は理想ですよね。

しかし実際には、家族揃って同じ時間に食事をとるのが難しい・全員がテレビやスマホの方向を向いてしまっている……など、理想とは異なる食事風景になってしまっている家庭が多いのが現状のようです。

毎日、家族みんなで食卓を囲めたら。子供にとって楽しみな時間のひとつに!

「健康な食事」というのは、

  • 1.食べる
  • 2.つくる
  • 3.伝え合う
  • という、大きく分けて3つの要素から成り立っています。

    「食べる」は、何を・どのように・誰と食べるのかといったこと。
    「つくる」は、調理だけではなく、食品を選んだり、食事の準備、食卓を整えたりすること。
    「伝え合う」は、食事に関する情報や知識・技術を共有し、学んだり教えたりすることを指します。

    とくに「子供」に関する部分に注目してみると、

  • 「食べる」は、バランスのとれた食事を取る体験を積み重ねたことによって、嗜好を育み、食べる力を養い、そして健康的な心身へとつながる。
  • 「つくる」は、調理や食卓を囲む楽しさの体験を重ねることで、自分から食事作りに取り組んだり、食卓を整えるなど基本的な習慣を身につけることができる。
  • 「伝え合う」は、食文化や調理法、素材、健康や栄養的な部分など、さまざまな方面から食に触れる機会や学習を重ねることで、食に対して主体的にかかわる力を養う
  • ことができます。

    これらのことは1人での食事で体験することは難しく、家族みんなで食卓を囲んだり、一緒に料理をするなどして身につけることができるものです。日常的に「食に対する体験」を積み重ねることで、子供にとり、食事が楽しい時間へとなっていくんですね。

    現代の生活環境が阻む、理想の食事風景

    ここで、総務省の「労働力調査」の内容をみてみましょう。
    2018年における”専業主婦”の世帯は600万世帯なのに対し、”共働き世帯”は1219万世帯と、共働きの家庭が多くなっています。これは、約3分の2の家庭では共働きであるということを表しています。

    さらに、リンナイ株式会社がおこなった「夫婦と食に関する意識調査」においても「共働きで大変だ」と感じる一番の要因は「時間」であり、その中でも「調理時間の確保」や「食事時間の遅れ」が悩みの上位となっています。

    家族揃って夕食をとる頻度について、厚生労働省の「全国家庭児童調査」を参照してみると、1週間のうち、家族揃って一緒に夕食を食べる日数について知ることができます。
    これによると、多い順に

  • 「2~3日」が36.2%
  • 「毎日」が26.2%
  • 「4日以上」が18.2%
  • 「1日だけ」が10.6%
  • 「ほとんどない」が7.0%
  • となっています。

    こうしてみると、毎日家族全員がそろって食事をとっている家庭のほうが少ないことがうかがえます。中には、家族と一緒に暮らしているのにもかかわらず、1人で食事を摂る「孤食」が増えてきているという問題も浮上しているのも現実です。

    また、子供が塾や習い事で遅くまで帰宅できないために食事が一緒にとれなかったり、せっかく揃っていたとしてもテレビばかりをみている、食卓でもスマートフォンやタブレットなどをいじっていたりする、などという問題がたびたび指摘されています。

    ”食事環境”は本当に子供の発達に影響するの?「食育」のメリット

    「食育」とは、好き嫌いをせず栄養バランスのよい食事をとることだけではなく《家族で楽しく食卓を囲むこと》を大前提としています。
    では、食事環境を整えることで子供の発達に対しどのような影響がでるのでしょうか。

    ここからは、”その子自身”をつくりあげる大きな要素となる「人格形成」に関することについてご紹介します。

    1〜3歳のうちから健全な食事が摂れる環境は、発達がよくなる!?

    長崎修道大学・岡本教授らの研究によると、1~3歳児において健全な食事状況にある子供ほど、手の運動・基本的習慣・発語・言語理解などの発達に好影響が表れた、という報告があります。
    これは、保護者からのアンケートによって、食事習慣や食卓での食べ方・食卓でのコミュニケーションなどで子供を分類した「食事健全さ」という項目において点数をつけ、いわゆる「理想的な食卓」であるほど高得点になる、という調査方法です。

    さらに「遠城寺式乳幼児分析的発達検査」を用い、

  • 運動(移動運動、手の運動)
  • 社会性(基本的生活習慣、対人関係)
  • 言語(発語、言語理解)
  • といった発達状況について、基準を通過した「通過群」と「未通過群」で分類しました。これらを、18~23ヶ月児・24~29ヶ月児・30~36か月児・36~41ヶ月児と、4つの月齢にわけて統計します。

    すべての年齢層で「手の運動」「基本低習慣」「発語」「言語理解」において、未通過群と通過群の点数の差が大きかったという結果になりました。

    この調査における「食事健全さ」については「コップを使って飲める」「はしを使って食べられる」という食事の基本技能や、食事内容(手料理や献立、添加物や衛生面など)に関する項目も含まれています。

    つまり、主食・主菜・副菜が揃った食事内容にすること、また子供が上手に食事がとれるようサポートしてあげたりといったコミュニケーションも「食育」には含まれるのです。

    家族でごはんを食べる習慣のある子は、生活習慣に「積極性」がうまれる!

    京都女子大学・表教授らの研究によると、家族みんなで一緒に食事を食べる子供は、一緒に食べる頻度が低い子供よりも積極的な生活態度をとっていることがわかっています。

    この研究では、朝食もしくは夕食の風景を「家族みんなと」「大人の誰かと」「子供だけで」「1人で」「食べない」とで分類し、家庭での「家事実践度」そして家事を「上手になりたい」「進んでおこないたい」といった積極性の項目について調査しています。
    すると、すべての項目にて「家族みんなと」食事をとる子供と「1人で」食べる子供では差がみられたのです。

    例えば、家事のお手伝いをどれくらいおこなっているかの「家事実践度」は、夕食を「家族みんなと」とる子供は34.7%、「1人で」と答えた子供は25.2%となっています。同じように「家事を上手になりたい」と思っている子供は、それぞれ32.7%と22.2%、「進んでおこないたい」と思っている子供は35.2%と22.8%となりました。

    朝食での調査の場合も同様で、家族で一緒に食事をとる子供は、生活習慣に積極性がうまれることが明確に示されたのです。

    実はこのデータによると「家族と一緒に食事をとる」と答えた家庭ほど、レジャーや家族の話し合い、家族の記念日を祝うなど、食事以外の家族間のコミュニケーション頻度が高いことが共にわかっています。
    子供の生活習慣における積極性は、家族の食事をはじめとする”コミュニケーション”によって培われることが明らかとなっているのです。

    「お箸を並べてくれる?」「◯◯ちゃん(下のきょうだい)のためにティッシュ取ってくれる?」といった、日常の食卓で繰り広げられる何気ないやりとり。一人の食事ではけっして発生しないこの”やりとり”が、家族間の連帯感を高め、子供の積極性に寄与していると考えられるのではないでしょうか。

    食べるのが下手な幼児は、ネガティブな性格に育ってしまう!?

    食べるのが下手な子供には、ネガティブな性格特徴がみられた」という、昭和大学・向井教授らによる興味深い研究報告があります。

    2歳以上の幼児の担当保育士らによって「食べ方が下手」と判断された幼児は、全体の2〜3割と多く見られました。そして、その食べ方が下手な幼児とそうでない幼児とを比較した際、食べるのが下手な幼児にはネガティブな性格特徴がみられたというのです。

    以前から他の研究者によっても「飲み込まないで口に溜め込んだり、よく噛まないで飲み込む子供のパーソナリティは精神的に不安定であり、落ち着きや集中力がなく、新しいことになじみにくい」という報告があります。

    その問題、食事が原因かも…?心配になる”子供の特徴”には、食事環境が大きく関係


    ここからは、最近よく耳にする「偏食」や「孤食」といった問題についてご紹介します。偏食はどのような子供に多いのか、孤食によってどんな影響があるのか、食事環境の大切さも交えてお考えいただければと思います。

    偏食・好き嫌いは、生活習慣から食事をみなおして

    偏食とは「特定の食品を嫌って避けたり、反対に特定の食材を好んでそればかり食べるような食品のとりかた」と定義されています。

    さまざまな研究において偏食の割合について調査されたものは、どの文献でも「幼児期の子供の約半数が偏食」という結果が見られるのはご存知でしょうか?「偏食」は「好き嫌い」と明確に区別できていない状況もあるため、比較的高い割合で「偏食」という結果になってる現状もあります。

    静岡県立大学の白木助教授らの研究によると、偏食の多い「幼児」のなかでもとくに、生活が不規則な子供に偏食が多いことが報告されています。

    「生活が不規則」とは、起床時間や就寝時間が決まっていない、遅い・着替えやトイレが自分でできない・朝食を食べない・夕食の時間が決まっていないことなどを指します。偏食は、自我意識が強くなる3歳ころから多くなりますが、生活が不規則になることで自立できない子供となってしまい、それが偏食へとつながっているというのです。
    また、3~4歳ころの偏食の子供においては「”離乳食の進め方”が影響している」という報告がなされています。子供の口に合わせた食べ物や食感、食品の種類を増やすことを心がけなかったり、市販のベビーフードを高頻度で利用していた保護者の子供は「偏食あり」の割合が高かったのです。

    月齢にあった食感や味であれば「食べること」そのものに楽しみを見出せるでしょう。しかし、それが保育者によっておろそかにされる場合、食事は楽しいものではなくなってしまう。それが偏食につながるのです。
    また、5〜6歳で偏食がある子供については、朝食を食べないことが多かったり、親子で一緒に食事作りをするコミュニケーションがほとんどない子供が多くいました。

    離乳食がスタートするころから食に対しての意識をしっかりもつのに、早すぎることはけっしてありません。
    子供に規則正しい生活を送ってもらうこと・子供と食のコミュニケーションをとることが、子供の「食」への興味を引き出し、偏食を予防するのにつながるともいえるでしょう。

    引っ込み思案な性格の原因は「孤食」にあり

    社会問題にもなっている「孤食」。そんな孤食が与える影響について調査した研究結果があります。岡本教授らによる研究で、子供期(6~11歳)の食事の状況のアンケートをとったものがあります。

    先述した「食事健全さ(食べ方や食品の充実など)」が優れた点数をとった場合・低い点数であった場合で、ここでも差が確認されました。その12項目のうち9項目において、性格の特性にも有意差がみられたのです。
    それは、

  • 抑うつ性
  • 回帰性傾向(情緒不安定)
  • 劣等感
  • 協調性欠如
  • 活動性
  • のんきさ
  • 思考的外向(他人が気になる)
  • 支配性
  • 社会的外向(人見知り)
  • です。
    情緒の安定性や活動性・主導性など「人格の形成」に対して影響があることが示されています。子供の頃の食事習慣が、成長した後の性格にも影響を与えることが明らかになった研究でした。

    1人で食事ができる年齢になったとしても、積極的に、家族そろった食卓で食事がとれるように環境を整えたいですね。

    オススメなのは「家族みんなが調理に参加する」こと!


    文部科学省が作成している「家庭教育手帳」の中では、家族の食事を共有することについて述べられています。

    ここではキーとなるポイントとして「子供と一緒に作り、食べること」を挙げています。一緒に食事を「つくる」ことによって、素材に触れて知識を増やし「自分が作った!」という達成感から食事も楽しくなり、会話も弾むものですよね。

    低年齢のうちは、できることからお手伝いをしてもらいましょう。1~2歳のころは、お箸などを運んで並べる、済んだ食器を下げる・トレンチに置くなど、危なくないところからスタートすることができます。少し器用になってきた3歳ころからは、冷蔵庫からクイズ感覚で野菜をとってもらう、野菜をちぎるなど、すこしずつお手伝いができるようになるでしょう。

    年長さん~小学校にあがると、ピーラーや包丁を使い始めるなど、少しずつ本格的なお手伝いが可能になってきます。必ずしも調理をする必要はなく、できる範囲から積極的に参加してもらうことが大切です。

    また、表教授らの調査によると「積極性が高い子供の家庭では、父親の食事作りの頻度が高い」という面白い結果も出ています。
    「家事が女性の役割」という考えが強い日本では「食事作りは母親の役目」という暗黙のルールがあるのが現実。しかし、性別によって家事の役割分担をせず、家族一丸となって食事作りをすることは、偏った考えに影響されない、柔軟に対応できる姿勢が身につくといえるでしょう。

    今まで料理をしたことがない男性の場合は、まずは子供も一緒に楽しみながら調理できるテーブルクッキングがおすすめ!お好み焼きや焼きそば、焼き肉などの鉄板系、また手巻き寿司などであれば、パパも活躍することができますね。

    まとめ

    共働きの家庭が増えてきたことや、たくさんの塾・習い事などといった「子供の教育」の変化に伴い、子供の食事環境は昔と大きく異なってきています。
    しかし、幼少期からの食事のとり方は、子供の性格に多大な影響を及ぼすことが実証されています。子供にとって大切な教育は、勉強や常識を教えるだけではありません。「食事」も、大切な「はぐくみ」なのです。

    今すぐ改善するのが難しい場合であっても、休みの日には一緒に調理をするなど、無理のない範囲で工夫し、家族みんなで食を楽しむようこころがけてみましょう。

    【参考・引用・関連リンク】
    総務省統計局「労働力調査」平成31年4月分
    https://www.stat.go.jp/data/roudou/index.html

    リンナイ株式会社「夫婦と食に関する意識調査」
    https://www.rinnai.co.jp/releases/2015/1001/images/releases20151001.pdf

    厚生労働省「全国家庭児童調査」
    https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/72-16.html

    岡本 洋子, 畦 五月, 田口 田鶴子 (2000) 幼児期における食事のあり方は味覚感受性や心身の発達に影響を及ぼすか(1~3歳の保育園児を対象として)、日本調理科学雑誌33巻2号p. 166-177

    表 真美 (2007) 家族の食事の共有が子供の生活態度に及ぼす影響、日本家庭科教育学会誌50巻2号 p.135-141

    向井 美恵,鈴木 美紀,千木良 あき子他 (1990) 乳幼児の摂食行動と性格特徴、昭和歯学会雑誌10巻3号p. 270-278

    白木 まさ子, 大村 雅美, 丸井 英二 (2008) 幼児の偏食と生活環境との関連、民族衛生74巻6号 p. 279-289

    文部科学省「家庭教育手帳」
     http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/katei/main8_a1.htm

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