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大人が感じる子供の「やる気のなさ」。その様相は、子供によってさまざまです。
実は近年、子供の「前向きな気持ち」や、物事に対する「積極的な態度」の低下が問題視されています。文部科学省など国単位でも、子供の意欲とやる気の向上に関して、情報収集や研究・検討などがおこなわれているのです。
子供の「やる気のなさ」や「怠け癖」とは、具体的にはどのようなことを指すのでしょうか。やる気がない子供が増えている原因や「やる気の育て方」なども合わせてご紹介します。
「うちの子ってなんで続かないんだろう……?」意外に多い、子供の”やる気”問題
勉強や習い事、生活習慣、自発的なお手伝いなど「どうしてうちの子は続かないんだろう?」と感じることはありませんか?そんな子供のやる気のなさについて悩む親が増えています。
お友達のA君は楽しく習い事を続けているのにうちの子は続かない、「頑張る」と言っていた自転車の練習も結局すぐに投げ出してしまう、「寝る前に明日の準備をしなさい」と言っているのに全くやらないので忘れ物が多い……など、心配につながる行動はそれぞれ。
子供が他の子に比べて意欲が低いのではないか、やる気が感じられない、怠け癖がついているのではないか、など、身近な悩みとなっています。「やる気スイッチ」という言葉が世間に一般化したほど、子供のやる気を奮い立たせるために良い方法が無いかと、講習会や書籍が次々に展開されているほどです。
そんな子供の「やる気のなさ」や「怠け癖」は、なぜ起こるのでしょうか。
「やる気が起こらないのはなぜ?」子供を責めてはならない3つの『原因』とは
大人からみて「やる気がない」とみられる子供も、その原因にはさまざまな種類があります。どんなことが「やる気」の低下につながるのか、ここでは多くの子供に当てはまる3つの原因についてご紹介しましょう。
基礎的な体力が低下している、不足している
まず、基本的な体力が十分にないことが原因として挙げられています。
体力の「持続力」が低下してしまうと、行動に移す前の思考段階における「集中力」が続かないため、やる気が出ない状態となってしまうのです。
文部科学省がおこなった「体力向上の基礎を培うための幼児期における実践活動の在り方に関する調査研究」では、「体を活発に動かしている幼児には、やる気がある幼児が多い」という結果が発表されています。「体を活発に動かさない幼児」について、保育園の先生が「いつもやる気がある」と評したのは 29.2%でしたが、「非常によく体を活発に動かす幼児」の場合「いつもやる気がある」と答えた先生が55.5%と多くいました。
さらに、遊び場所が室内か戸外かの関係においても違いが出ています。「いつもやる気がある」と評された幼児のうち「室内での遊びが非常に多い」幼児が38.2%だったのに対し、「戸外での遊びが非常に多い」幼児は 50.0%と多くいました。
体を活発に動かし、外遊びの頻度が高く、体力がある幼児ほど、やる気やモチベーションが高い性格を有している傾向が見られたのです。
子供の価値観とまわりからの期待の差
「子供が思う価値観」に対して、学校や親など、社会的な側面からの期待に差が開くことも、子供のやる気の低下につながっています。とくに、努力をしても親や学校などから評価されない状況では「誰からも認めてもらえない」と感じ、それがやる気の低下へと繋がってしまうのです。
例えば「大谷翔平選手のような二刀流のプロ野球選手になりたい!」と子供が発言したとしましょう。そのとき周りから「君は足が速いから、投手よりもショートやセンターが向いている」と否定的なことを言われるなら、イコール、目標としていたものを否定されることになります。そうなることで自身の方向性を見失い、やる気の低下に繋がってしまうのです。
つまり、親や周りが「子供のため」と思ってアドバイスしたことであっても、子供にとっては「やる気低下」へとつながってしまう恐れがあるというわけです。
さらに、周りからの「過度な期待」も、やる気の低下につながってしまいます。最初は楽しく取り組んでいたスポーツであっても、親やチームからの過度な期待をどんどん受けてしまうと、自分の気持ちとの温度差に困惑してしまいやる気の低下へとつながっていってしまうのです。
やる気が出て行動に移す段階での「つまずき」
これは前項目で挙げた見解とは異なり、「やる気」は持っていたはずなのに「つまずき」が生じてしまうことで「継続するやる気」へとつながっていかない事を指します。
例えば「テストで100点を取るために頑張ろう」とやる気は出ているのに「勉強しないといけないけど、ゲームをする時間が減ってしまう」というような「負担感」から、行動に移す前に諦めてしまう……という状態です。また、すでに勉強はしているけれど、どんな方法で勉強すれば自分に合っているのか分からない状態など、迷いを含む「つまづき」の状態もこれにあてはまります。
さらに「前も頑張って勉強したけど、結局100点取れなかった」という「失敗」に対する徒労感や絶望感などから抜け出せない、挫折感も含むでしょう。
そんな過去の「つまずき」によって「やる気」が消失してしまうこともあるのです。
親の接し方で「子供のやる気」は育つ!具体的に実践したい6つの生活習慣とは?
子供のやる気を育てるためには、親の接し方が非常に重要になります。「最も大切な点」といってもよいでしょう。
ここでは、横峯吉文 著「男の子が本気でやる気を出す育て方」や、岩手大学名誉教授の加藤氏による「くせ・習慣の心理臨床的特性と対処法」から、親がしてあげられる生活習慣などを厳選。今日から始められる習慣6つをご紹介します。
子供が自分でできるのを「待つ」!
とくに時間がないときなどは「早くしなさい」と声を掛けたり、つい手を出してしまいがちな生活全般における何気ない事柄。そういったことについて親が余裕を持ち、面倒をみすぎないようにするのは重要です。
とくに年齢が低いときは、全ての行動においてスムーズに進まないことが多いはず。ぜひ、子供を「お兄さん」「お姉さん」扱いし「お母さん・お父さんがお手伝いしなくてもできる」ということを体験させてみてあげてみてください。たった一つの些細な生活習慣であっても、自分の力でできたという達成感は得られます。
その達成感が積み重なっていくことで、子供が自分でやってみようと思う「やる気」へとつながっていくのです。
家のお手伝いを「仕事」としてお願いする
止めなければいつまでも遊んでいる子供に対して「遊んでないで少しはお手伝いやってよ」と声を掛けてしまうことはよくある光景です。そうすると子供も、イヤイヤながらお手伝いをしてくれますが、自分からお手伝いをするようにはなかなかなりません。
子供も家族の一員と認め、家のお手伝いを「仕事」として任命してみてください。最初は簡単なお手伝いで大丈夫です。
筆者の場合、6歳の息子には、必ず1歳の弟に朝靴下を履かせる仕事をお願いしています。ペットボトルのゴミの日には、ゴミ袋が軽いので、家の前まで出すお仕事が、それから夕食後のテーブルを拭く任務もあります。
こうして「担当」をもつことで責任感が出てくるようになり、「自分がやらないと!」といったやる気につながっていきます。もちろん、与えた仕事をこなすことを当たり前としてスルーせず、毎回感謝と労いの言葉を子供にかけます。
洗濯やお掃除などは、最初から上手にできる子供はいません。しかし、小学校も学年が上がって慣れてくると、必ず上手にできるようになってくるでしょう。
中学生の頃になってお弁当が毎日必要になれば、おかずを自分で一品つくらせてみるのもおすすめです。「味」という自分で体感できる成果があるので、よりやる気や自信へと繋がります。
スポーツで集中力を高める
「集中力」は、やる気を育てるのにキーとなる能力です。「一流の頭脳」という著書を執筆したスウェーデンの精神科医アンダース・ハンセン氏は「机に座って問題を解かせるだけでは、子供の学力は決して上がらない」と唱えています。最近の研究では、”運動によって脳の認知機能が高まる”ことが明らかになってきているのです。
とくにスポーツは、集中力を高めるのに推奨されています。勉強などで集中力を持続させるのはなかなか大変ですが、スポーツは「ここぞ」というポイントでのみ集中力が必要となるので、子供でも取り組みやすいのです。
適度な運動は体力向上にもつながるので、休日などに家族みんなで楽しんで取り組めるものがおすすめです。
家族でキャンプを楽しんで、やる気スイッチON!
アウトドアブームによって家族や友人たちとキャンプを楽しむ人が増えてきていますが、子供のやる気を上げるためにもキャンプはおすすめです。最近では、道具が無くても手ぶらでキャンプを楽しむことができるサービスも充実しているので、初心者でも気軽にトライすることができますね。
キャンプがおすすめな理由は、不便なことや普段できない体験が多いから。家族との長時間の相互コミュニケーション、試練を乗り越える克服体験、冒険的な活動がたくさんあります。火をつけるのにも、日常生活より時間がかかるような状況です。協力しておこなうことで、家族との絆や信頼関係、尊敬や感謝の念も深まっていくでしょう。
この非日常的な活動は、やる気や意欲をつかさどるとされている「前頭連合野」の抑制機能の発達に寄与し、さらに前頭連合野に望ましい変化を生み出す可能性があるということが、独立行政法人国立オリンピック記念青少年総合センターの調査で報告されています。
三日坊主にさせない!習慣強度を高める
心理学用語である「習慣強度」とは「習慣化された行動は、無意識のうちに特別な努力をせずにおこなえるようになる」ということを指す言葉です。
やる気の敵である「三日坊主」ですが、実はこれには、大脳の神経系の特性が影響していることがわかっています。人間は「慣れ」が出てきた際、同じことを反復することを得意としていません。気持ちが離れて興味が低下すると、脳神経が反応しなくなってしまうのです。
これを回避し、やる気を持って自主的に取り組むためには「習慣強度」を高めることがポイントになります。何度も毎日同じことを繰り返し続けることで「癖」や「習慣」として、自然に子供が身につけていくことができます。根気よく続けて習慣化することで、「◯◯をやらなかった日は調子が悪い」という状態にまで変えることができるのです。
ただし、もともと継続・集中力の低い子供の場合、親のサポートが重要になってきます。親側としても「今日くらいはいいか」とならなようにし、子供に何かを継続させることについて、自身も習慣化していくことが望ましいでしょう。
良い生活習慣は「初日」から
既に習慣ができあがっている状態から正しい習慣へと直すのは非常に難しく、大変なエネルギーと労力が必要です。
中学生になってから急に「勉強しなさい」と説教をしても、勉強を自分からし始める子供はまれです。そのため、何かをスタートするタイミングでしっかりと教え、正しい方法を習慣づけさせることがポイントになってきます。
例えば「学校から帰ってきたら、かばんは机の横のフックに掛ける」を習慣づけしたい場合には、入学した初日から習慣づけすることが重要になってくるのです。
ご褒美はほどほどに……
「100点取れたら好きなおもちゃ買ってあげる!」というように「ご褒美」を提示して子供をやる気に導く方法ーー。これは多くの方が無意識のうちに実践しているのではないでしょうか。しかし、この方法はほどほどにしないと、逆効果になることも。
自発的に勉強をしていた子供に対して報酬を与える、といった「外発的動機づけ」をおこなってしまうと、本来持っていたやる気やモチベーションが低下してしまう現象が確認されているのです。これを「アンダーマイニング効果」といいます。
玉川大学脳科学研究所の松本教授の研究によると、報酬を提示したことで課題がうまくできた場合、次にやるときに外的な報酬が出ないことがわかると、脳の反応も鈍くなってしまうことが報告されているのです。
ただし、この方法は悪影響ばかりではありません。「全くやる気がない状態」から「やる気を出す状態」へと導くときにはプラスの効果(エンハンシング効果)があることも確認されています。
「ご褒美」を使うタイミングはじゅうぶんに見極めることが重要です。
どうしても改善しないその怠け癖、実は「疾患」かも?誰のせいでもない「起立性調節障害」
朝なかなか起きることができず、午前中は調子がでない……という子供が多くいます。
そんな子を「だらしない」「怠けている」「他の子は朝から元気なのに……」と評してしまいがちですが、実はそれは「起立性調節障害」という疾患によるものかもしれません。
これは、自律神経系の問題を中心として発症するものです。交感神経の緊張速度の遅れ、起床時の低血圧と血圧上昇の遅れによって、朝起きれないことが証明されているのです。
田中英高氏による「不定愁訴と心身症」の研究によると、小児科外来の6%がこの「起立性調節障害」であり、不登校の40%に起立性調節障害が合併していることがわかっています。さらに、起立性調節障害の約40%に「入眠困難」があるという報告もあります。夜間の交感神経の緊張が強くなり、概日リズム睡眠障害を伴っていることもあるのです。
そのため、夜なかなか寝ない子供については「遊びたいから起きている」のではなく、”本当に眠れない”場合もあるということを覚えておくとよいかもしれません。もしかすると、その障害(疾患)により日中の活動に支障が出ている場合も考えられるからです。
まとめ
子供のやる気を向上させるためには、課題を達成できる可能性の認知にあたる「自己効力感」や「積極性」をはじめ「自己肯定感」や「主体性」「リーダーシップ」など、子供が自分自身を認めながら前向きに取り組む力が必要です。
他の人との連帯感や意欲を向上させる活動・生活習慣を、家族で取り組んでみるとよいでしょう。家でもできるお手伝いなどによって成功体験や達成体験を積み重ねながら、休日には野外での体験活動やスポーツを楽しみ、子供のやる気をどんどん育てていってみてください。
【参考・引用・関連リンク】
■著書:「男の子が本気でやる気を出す育て方」横峯吉文 スバル舎
■著書:「一流の頭脳」アンダース・ハンセン(著), 御舩由美子(翻訳)
文部科学省 子どもの意欲・やる気等の向上・低下に係る調査研究成果・事例の収集調査(結果の概要)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo5/gijiroku/06031401/003.htm
文部科学省 青少年の意欲をめぐる現状と課題
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/gijiroku/attach/1346660.htm
文部科学省 体力向上の基礎を培うための幼児期における実践活動の在り方に関する調査研究
松元健二(2014)やる気と脳 ─価値と動機づけの脳機能イメージング, 高次脳機能研究34(2):165~174
https://www.jstage.jst.go.jp/article/hbfr/34/2/34_165/_pdf/-char/ja
加藤孝義(2013)くせ・習慣の心理臨床敵特性と対処法,現代行動科学会誌 第29号, 11-27
数間紀夫(2015)小児科領域における起立性調節障害について、神経治療32:351-356
https://www.jsnt.gr.jp/Archive/pdf?gid=cq3neuro/2015/003203/027/0351-0356