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AI(人工知能)がもっともっと活躍するであろう、これからの未来。今まで人が携わってきた職業が、AIにとって代わってしまうとも言われており、漠然と子供の将来(就職や進路)が不安になっている方もいるのではないでしょうか。

そのような不安を解消するためには「生身の人間」と「人工知能」の違いを”強み”にすることが必要です。AIにはない「人間性」を豊かにし、将来への選択肢を増やすことがとても重要になってきます。

そのような、人間にあってAIにない能力の一つが「読解力」。
この記事では、現在進行形の教育改革も含め、これからの時代に重要な「読解力」を伸ばすためにできることをご紹介していきます。

普段の会話から読み取れる、子供の「語彙力」の低さを問題視する

2017年に文部科学省がおこなった「平成28年度 子供の読書活動の推進等に関する調査研究」では、不読率(1ヶ月で読んだ本の冊数が0冊)について、高校生の場合は約1/3以上が月に一冊も本を読まないことが明らかになりました。

  • 小学生……1割未満
  • 中学生……約1~2割
  • 高校生……約3~4割
  • 小さい頃はスマホなどのデバイス所持率も低いこと、また絵本などに親しみを持つ子供が多いこともあり、年齢が上がるにつれ不読率が高くなっていくことがわかります。

    本を読まないということは、自分の周りで使っている言葉しか身につかないということ。実生活で使用している「言葉」というのは実はあまり多くないので、何か表現したい場合などに、うまく言葉が思いつかない事が多くあります。

    また、読書を多くしている子供のほうが、論理的思考の意識や行動に関する得点が高く、話を理論的にまとめながら、語彙を正しく扱えることがわかっています。そのため自信を持って発言することが可能になり、コミュニケーションも円滑になるのです。

    例えば「敬語」は普段の生活において、家族や友達に対して使うことは、ほとんどない話し方。大人が子供に向かって使うこともありません。しかし、本では自然と大人同士の会話の中で使われていることも多いため、どのような場面で必要となる言葉なのか自然と身についていくでしょう。
    そういったところから、敬語を使った会話が自然にできる子とできない子、といった「語彙力の差」が自然と出てきてしまうのです。

    「語彙力」と「読解力」の相互関係

    東大や慶応大の教授を歴任され、文部科学大臣補佐官でもある鈴木寛氏は「読む力と書く力は表裏一体」であると表現しています。これは「書く力」を確認することで、読解力や思考力・表現力が習得できているのかが明確にわかるからです。

    その「読解力」を鍛えるためには《語彙を増やす》ことがポイントになります。正しい語彙を選択して使うことで、より伝わりやすく、より的確に表現することが可能になるのです。
    ただし、文や言葉の”定義”が理解できないでいるなら、新しい語彙を正しく習得できません。大人になってから本を読んで語彙力を積み上げようとしても、なかなか積み上がっていかないものなのです。

    中学1年生の教科書を、しっかり正しく読める状態で小学校を卒業しておくべきであり、それまでに語彙力をきちんとと身につけておくのが重要になります。

    データで見る、子供の「読解力」の低下

    新井紀子氏による著書「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」では、子供の読解力のレベルがわかる問題が記載されています。

    例えば、中学1年生で概念を習う「数学」のグラフを用いて、問題文の正確な理解に加え、図やグラフの意味を読み取る能力が試される「イメージ同定」の問題が載っています。

    ”「原点Oと点(1,1)を通る円がx軸と接している」を表す図として適切なものを①~④のうちから全て選びなさい”

    出展:「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」P210 参照

    筆者がこの問題を見た時、簡単すぎるので「引っ掛け問題なのか?」と疑うほど、非常にシンプルで基礎的な問題文とグラフだと感じました。子供含めそう感じる人が多いからでしょうか、中学2年生なら7割ぐらいの正解率を想定された問題ですが、実際は中学1年生の正解率は10%・中学2年生の正解率は22%・中学3年生の正解率は25%と大変低い結果だったのです。

    この正解率の低さの主な原因は《問題文の内容をしっかりと読めていないこと》が当てはまります。非常にシンプルで短い問題文なのに、その文章が読めていないのです。

    「AI」に負ける!?”読解力”が低いことで懸念される将来への不安

    知っている言葉を使って文章を拾い読みし、詰め込み型の勉強でテストや受験を乗り切っている子供も多くいます。そうすると、子供の読解力はAIと大差ない状態となってしまいますが……。将来、AIがさらに活躍する時代になったら、どうなるのでしょうか?

    「読解力の低さ」が及ぼす問題点について紹介します。

    大学入試で点数が取れない!?

    現在の大学入試の2次試験で「記述問題」を課すのは、東大や京大、慶応大学など、まだまだ一部の大学に限られており、約6割の大学入試では記述問題を取り入れていませんでした。しかし、2020年に学習指導要領の改訂がおこなわれる予定であり「学習指導要領改訂の中核は《読解力》である」とも言われています。
    実社会で必要になる「伝える力」を重視し、科目が新設や再編されるのです。

    例えば高校では、国語に「論理国語」と「国語表現」という記述に関係する選択科目が追加されます。そして、大学入試制度でも2021年から導入される「大学入学共通テスト」では、数学と国語で記述式の問題が3問ずつ出題されるようになり、2024年度からは地理歴史や公民、理科でも記述式の問題が導入できないか検討されています。

    記述問題でキーになってくる「語彙力」と「読解力」が、将来の選択に大きく影響する可能性が出てくるのです。
    ※関連記事:「過去問学習では通用しない!?2021年から変わる「大学入試」」

    AI社会での読解力不足は、就職の機会を逃す!?

    AIは、物事の関係を覚えて記憶を引き出し、決められた範囲の部分で能力を発展させます。ただし、主体性や意思を持つことはありません。疑問やひらめきなど、人間が当然のように思うことが起こらないのです。

    記憶や計算に関してAIが社会を担う時代になってきたら「知識」を習得しただけでは、AIに職を取って変えられてしまうかもしれません。そこで、未来を生きる子供に必要とされているのが「読解力」なのです。

    しかし、新井紀子氏が全国2万5000人を対象に実施した「基礎的読解力調査」では、中位の学力を持つ高校であっても、その半分以上が「文章の内容を理解する読解問題」が解けなかったことが明らかとなりました。文章を精読したり、自分の考えを深めるまでの読解力が身についていないのです。

    さまざまな職種において、AIが人間に変わる時代がやってきたとき、AIにはできない読解力を身につけておくことが必要になってきます。

    学力や能力があってもつまづいてしまう!?

    既出の「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」にはさまざまな例文が記載されていますが、不正解者からは「そもそも、読みづらい文章を教科書に使うことが間違い」「教科書に書かれているのは悪文だらけ」という批判が多く聞こえてきたと新井氏は述べています。

    しかし、実生活で使う行政の文章や契約書などは、教科書以上に読みづらい文章が多いのが現状です。そのため、教科書レベルの文章も十分に読めない読解力や語彙力であることは、将来大きな問題に直面する可能性があります。
    例えば、大学で必修科目の単位を落としてしまったり、仕事で契約書が読めずミスを犯してしまったり、意味を取り違えてしまうこともあるでしょう。業務で必要となる作業のマニュアルが理解できなかったり、社内や外部へのプレゼンなどで正確に伝わる文章を書くことができないといった現実です。

    読解力が足りないだけでつまづきに多く接してしまい、将来望まない方向へ進んでしまうかもしれないというわけです。

    そもそもなぜ増えている?「読解力の低い子供たち」

    子供の読解力は、本や子供同士の世界よりも「大人との会話」などで吸収できるものが多いとされています。しかし、現在は家族で一緒に食事をする機会が減少するなど、親子のコミュニケーションが取りづらい環境になってきているのも現実です。

    子供と一緒に過ごす時間は、読解力の育成にも重要

    最近は、共働きの家庭が当たり前に増えています。昔はリビングで家族揃ってテレビを見る時間なども多くみられたように思えますが、両親のどちらか・または両方とも夜も仕事で家にいなかったり、いたとしても各々がスマートフォンを片手に過ごすなど、家族のコミュニケーションの時間が減ってきているのが現状です。

    ベネッセ教育総合研究所の調査結果では「社会のできごとやニュース」について、4割前後の子供が父親と話していることがわかっています。子供の生活範囲ではあまり耳にすることがない言葉も、父親との会話の中で「どういう意味なの?」と気軽に聞きながら新しい語彙を増やすことができます。しかし会話自体が減ってしまうなら、その機会も無くなってしまうでしょう。

    また、大人同士の会話を聞きながら理解する「読解力」についても同様です。子供との一方的な会話ではなく、父と母が揃って会話をしていくことも重要になってくるのです。

    読解力は偏差値に相関性アリ

    国立情報学研究所が人工知能(AI)の研究を通じて開発した「リーディングスキルテスト(RST)」があります。これは、教科書に書かれているようなシンプルな文章をどれくらい正確に読むことができるか、科学的に診断するテストです。

    このテストをさまざまな高校でおこなった結果、高校の偏差値と極めて高い相関があることがわかりました。つまり、読解力が優れている子供は偏差値の高い高校へ通っている割合が高いということになるのです。

    このことより、問題の意味をより理解できる子供の優れた「読解力」は、試験の成績などにも影響することがわかります。

    未就学児時代から家庭で伸ばそう!子供の読解力&語彙力

    子供の読解力は、伸ばしたい時に即座に伸ばせるものではないため、低年齢の頃からの積み重ねが大切です。
    ここからは、未就学児の頃から家庭での読解力や語彙力の伸ばし方をご紹介します。

    多くの生活経験を体験させる!

    読解力に必要な「語彙」は、実は学校だけで増やすのは難しいと新井紀子氏は進言しています。先にも述べたように子供の語彙量は、大人同士の会話や生活体験などといったリアリティも大切になってくるからです。

    例えば、家がオール電化であると子供は火を目にする機会がないため、火が熱いこと・どのくらい熱いのかさえ知り得ません。そのため「火のように熱い」と説明しても、全く伝わらないのです。

    子供の語彙力の低下は子供を取り巻く「環境」が大きく影響するため、親は意識的に環境を整えておくことが重要になってきます。

    語彙力は低年齢のうちに

    読解力を養うのに必要な論理的な思考は、家庭内で幼い頃から習得するのがポイントです。一朝一夕で身につくものではなく、時間を掛ける必要があるのです。意識としては、小学校低学年までに語彙力を十分に増やしておくとするのがよいでしょう。

    例えば、家庭内での会話レベルであっても、正しく受け答えができるようにしておくのが目安です。生活の基本となる「家庭での会話」さえも十分に理解できないとなると、その後の教科書などに書かれている少し難しい言葉でつまづいてしまうかもしれません。

    スマホ好きには電子辞書を!

    最近の子供は、何も教えていないのにスマートフォンを勝手に操作して、大人もびっくりする事が多いですよね。
    そんな電子機器が好きな子供には『「読む力」と「地頭力」が一気に身につく東大読書」』の著者である西岡壱誠氏も”最強の学習ツール”として紹介している「電子辞書」がおすすめです。

    本の辞書も語彙力を伸ばすのには良いのですが、毎回辞書を引くのは時間がかかり、子供も楽しくありません。その点、電子辞書はボタンをポチポチと押すと、簡単に調べることが可能です。そして、例文に知らない単語があった場合も、そのままその単語だけを続けて調べたり、また反対語や同意語も載っていたりするため、一つの言葉を調べるだけで何種類も知ることができます。

    また、参考書や英語の動画などといったさまざまな機能が備わっているので、子供にとっては遊びながら・簡単に語彙力や読解力を伸ばす機会になります。
    小学生向けの辞書も展開されているので、年齢に合ったアイテムを選んであげると、さらに楽しく学んでいくことができるでしょう。


    まとめ

    読解力や語彙力は、中学生や高校生の頃に急に伸ばしたいと思っても、基礎ができていないとなかなか思うように伸びません。幼少期からの積み重ねにより「人間力」として伸びていくものなのです。

    子供は、1歳を過ぎれば言葉を覚えていきます。未就学児から家庭内で家族とのコミュニケーションをたくさん持ち「勉強」などと思わず、簡単なことから長期的に伸ばしていくのがポイントです。子供が聞いてくる様々な疑問に対し、面倒がらずにちゃんと答えてあげることが子供の理解を助けます。

    先述したように共働きの多い現代では、会話の時間を取るのが現実的に難しこともあるでしょう。その場合は手紙の交換(メールでも可)などによってコミュニケーションをはかることもできます。

    「読解力」は、人間性を高め、将来の選択肢を広げてくれる能力なので、ぜひ日々の生活で意識して実践してみてください。

    【参考・引用・関連リンク】
    ■著書:「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」 新井紀子(著) 東洋経済新報社

    ■著書:「なぜ、「ふつうの子」がぐんぐん伸びて難関校に受かるのか?」須野田誠(著) すばる舎

    ■著書:「「読む力」と「地頭力」がいっきに身につく 東大読書」西岡壱誠(著) 東洋経済新報社

    ■著書:AI時代に勝つ子・負ける子 週刊東洋経済eビジネス新書 東洋経済新報社

    ■ベネッセ異教育総合研究所「第2回子ども生活実態基本調査報告書」

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