『反省させると犯罪者になります(新潮新書)』の著者、岡本茂樹先生のインタビュー3回目(最終回)です。
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あまり聴き慣れない「ロールレタリング」とは、一体どのようなものなのか、人の心を変えるために「ロールレタリング」という手法がどのように有効なのか? その本質を知れば、日々の子育てにおいても、子供との関係の中で何が大切なのかが見えてきます。
(インタビューは KosodateMedia 編集長の尾崎です。)


尾崎 :「ロールレタリング」という言葉は、あまり一般の方が聴き慣れないものだと思うのですが、どういったものなんでしょうか。

岡本 :今から30年以上前に、熊本県にある人吉農芸学院という中等少年院があるのですが、そこで和田というとてもカウンセリングを熱心に勉強されていた方がいました。仮出院を目前に控えた男の子がいたんですが、その時に義理のお母さんが突然引き受けを拒否したんですよ。仮出院には色々と条件があるんですが、引受人がいなくなると取り消しになるんです。仮出院が取り消しになるのも大きいですが、何より母親に裏切られたって言う気持ちが強いわけですよね。それまで真面目だった少年がすごく荒れるわけなんです。荒れる気持ちも分かりますよね。

そこで和田先生はその少年に「そんなに腹が立っているんなら、お母さんのことを紙に書いてみろ」と言ったところ、ワーッとお母さんへの怒りを書き出したらスッキリしたっていうところがロールレタリングの原点になっています。これは少年院にも使えるということで試行錯誤されて作られていったわけです。ただそれが今では形骸化されてしまっています。なぜ形骸化されてしまっているかと言うと、結局これを反省の道具にしてしまったからなんです。

ロールレタリングと言うのは、もともと『役割交換書簡法』というタイトルだったんですが、つまり役割を交換しましょうっていうことで、「私からお母さんへ」と書けば、今度は「お母さんから私へ」と必ず書くというパターンになるんです。特に相手の立場から自分へというところを重視するんですよ。これはなぜそうなのかと言うと、相手のつらい気持ちを分からせようということが狙いなんです。だから「被害者から私へ」みたいに。

でもそもそも、私も経験したし、実際に書いてみれば分かると思うんですが「相手から自分へ」なんてなかなか書けるものじゃないんですよ。それを無理して書かせているから、本音が出てきません。少年院では命令されれば書かなきゃいけないので書くんですが、全然深まらなくて、最後は「すいません、ごめんなさい」の世界で終わってしまうんです。それで結局、何も変わらないよね、効果ないよねってなってしまうんです。

少年院は全国で52あるのですが、ロールレタリングはカリキュラムに入っていて、どこかの単元に組み込まれています。「私からお母さんへ、お母さんから私へ」「私から被害者へ、被害者から私へ」というような感じで、3往復して、3ヶ月休んで、また3往復してなど、パターンが決めてあるんです。でもパターン化しても書けるものでもないわけで、原点は最初に和田先生が少年に義理のお母さんに対する怒りをバァーっと吐き出させた、そのやり方が一番のポイントなんですよね。相手に対して思い切り自分の思いを吐き出すっていう。自分の心の中に詰まっていた嫌な思いを吐き出していくと、「俺はこんなところで傷ついていたんだな」って。それを重視した方が本当の心の整理になるんですよ。

尾崎 :ロールレタリングの効果的な使い方としては、自分の感情を好きなように書かせる方が良いということですね。

岡本 :はい。そうじゃないとうまくいかないということを、今一生懸命伝えているところです。

尾崎 :そうすると、形骸化してしまった現状では反省文的に書かされていると。

岡本 :書かされているだけですね。矯正教育で有名な某少年院があって、東京なんですけど。そこでロールレタリングの講習会に講師として呼ばれたんですが、「うちでこんなことをやっています」とロールレタリングのやり方を見せてもらったんです。「私から被害者へ」「被害者から私へ」ということを9往復やらせるんですよ。全部で18通。悪いことしたんだからやらなきゃいけないと言われればそれまでだけど、そんなことやったって嫌になるだけです。結局何も解決しないまま「すいませんでした」の世界になるんですよ。するともっと気持ちが抑圧されて少年院を出ていくことになりますから。

尾崎 :感情を抑圧して、上辺だけの反省文を書いている。しかも9往復も。それは苦行ですね。

岡本 :そうです。ほんとに苦行なんです。でもそれがほとんどの刑務官、少年院の法務教官には刷り込まれているという感じですね。そういうやり方に疑問を持っていませんでした。

尾崎 :現場の人たちも形にこだわってしまっているんですね。

岡本 :そうなんです。要するに現場の人も分からないんですよ。教育とか心理とか福祉とかを学んだ人が、大学で刑務官や法務教官の試験を受けるんですが、そんなに深く心理などを学んでいるわけではないので、少年院で前もってカリキュラムが作られていたら、その通りやっちゃうわけです。やらせるだけになって、カリキュラムが終わりました、では次はこれをという流れになってしまって、限りなく形骸化しているということですね。

尾崎 :またその書かれた内容を適切に判断するのも難しいですよね。「よく書けているな、しっかり反省しているな」と表面的な受け止め方で評価されますよね。

岡本 :そうです。評価されてしまうんですよ。しっかりした反省文が書けていると。悪質な人間をつくっていることになっちゃってるんですよ(苦笑)。

尾崎 :刑務官や法務教官に“評価される文章”を書くのが上手くなりますもんね。

岡本 :そうなんですよ。だから「反省させると 犯罪者になります」(笑)。

尾崎 :(笑)。
一般の場合でも、結局こういうことを繰り返すと大人受けする文章を書くようになったり、言葉として言うようになったりするということですね。怖いというか、現状そういう形で行われていることに驚きですね。

岡本 :怖いですよ。見方を変えれば、ロールレタリングが反省文を書かせる格好のやり方なんですよ。「私から被害者へ」っていう手紙を書かせて、「本当にすいませんでした。ごめんなさい。」と書いてあれば、「よくできているな」となるわけです。単に、反省の道具になってしまっていて、結局なにも内面を見つめていないということになります。

尾崎 :ロールレタリングを使用する上で、別に形は決まっていないんでしょうか?岡本先生の場合は、できるだけ内面を吐き出させるような使い方をしていくということなんですね。

岡本 :はい、僕はそうなんです。だから受刑者が書きやすいように順番を考えるわけですね。カチッとしたものはないんですけど、マニュアル的なものはあるんです。大体3往復して、3ヶ月休んで、3往復というように、そういうのが結構多いですね。

前に法務教官の前でロールレタリングの講習会をしたときに、吐き出しをしてうまくいくんだという説明をしたんですね。すると後で質問があって、「3ヶ月空けなくていいんですか?」というような質問をするわけなんです。もうガチガチになってるんですよ。僕が逆に「3ヶ月空ける意味は何ですか?」って聞くと、「いや~、そういう風にカリキュラムに決まってますから」となるわけです。別に3ヶ月空ける意味は全くなくて、書きたいときは一気に書いちゃえばいいわけですよ。だからそんなに長い期間をかける必要もないし、たくさん書く必要もないんです。むしろものすごく重い感情が出たらそんなに書けないですよ。数通でもOKなんですけど、なんかたくさん書かないといけないと思い込んでいるわけです。たくさん書くと深まるという意識があるから、100通くらい書かせるところもあるんですよ。

尾崎 :えぇー!!

岡本 :読ませてもらったらね、もう季節のお便り文。「お母さんお元気ですか?」とかね。ただの普通の手紙じゃんって(笑)。何の意味もないっていう感じになっていて、書くこともなくなってきます。それを何回も往復しているから・・・もう笑い話みたいな話になりますよ。

尾崎 :ロールレタリングの使い方をちゃんと改めないといけないですね。違う方向へ行ってしまっていますね。

岡本 :結局、刑務官や法務教官は更生をさせた手応えがないんだと思うんです。僕も非行とか犯罪の本をたくさん読みますが、更生していった事例などをまず見たことがない。刑務官や法務教官にとっての更生が「反省させること」になっていたら別ですけど。本当に心から申し訳ないことをした、というような手応えを感じたことがないというところじゃないかなと思っています。
反省させることありきで入ってしまうと、表面的なパターンで「これでいいんだ」となってしまう。反省している言葉を引き出すことがスタンダードになっているという事ですから。

尾崎 :最後に、本の中で「反省」と「後悔」という話がありましたけれども、まさにそうだなと感じました。子供の頃を思い出すと、親に何かばれたとか、何かあった時に「反省」ということは全然頭に浮かばなくて、「どうしよう」とか「あの時何で~しなかったんだ」とか「なんで俺だけ、あいつの方が悪いのに」とか、たぶんそっちの感情が先なんですよね。
まず「後悔」の感情が先にあって、「反省」の感情はもっと後になってからだと。親になって子供を怒る立場になって感じるのが、怒っているまさにその時は反省なんかできるはずがないということなんですよ。

岡本 :怒りにくくなったでしょ(笑)。

尾崎 :ほんとこの本を読んでから怒りにくくなりました(笑)。

岡本 :どうなんだろうって思っちゃうでしょ。こういうことを知ってもらうと、それだけでも僕は本を書いた意義があったかなと思います。

尾崎 :世のお父さんお母さんは、これを知ると頭ごなしには怒れなくなりますね。

岡本 :それは本当に一番伝えたいことでもあったので。

尾崎 :いや~よくわかりました。これまでの話から、問題行動をチャンスとして捉えることができれば、変えることができると理解しました。もし自分の子育てに後悔があったとしても、今からでも遅くないということですよね。

岡本 :今日から始めれば良いということですよね。もし今悩んでいる人がいたとしても、本音で話し合えればいいわけですから。
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尾崎 :長時間ありがとうございました。本当に勉強になりました。

岡本 :楽しい時間でした、ありがとうございました。

〈完〉

※岡本茂樹先生は2015年6月に亡くなられました。このインタビューでは本当に親切に接して頂き感謝しかありません。なぜあんなに素晴らしい人柄の方が早くに亡くなってしまうのか、残念でなりません。心よりご冥福をお祈りいたします。


『反省させると犯罪者になります』 岡本茂樹(著)  新潮新書


『凶悪犯罪者こそ更生します』 岡本茂樹(著)  新潮新書


『いい子に育てると犯罪者になります』 岡本茂樹(著)  新潮新書


『ロールレタリング: 手紙を書く心理療法の理論と実践』 岡本茂樹(著)  金子書房


『無期懲役囚の更生は可能か―本当に人は変わることはないのだろうか』 岡本茂樹(著)  晃洋書房

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