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日本国内で食物アレルギーを持つ方は、全人口の1~2%とも言われており、乳児に限定すると、約10%が何らかの食物アレルギーをもっているとされています。
しかし、アレルギーの検査で数値的に「アレルギーである」と判定されても、実際には、食べてもなんの症状も出ない…という方も多くいるのです。
現在では、食物アレルギーに対して絶対的に有効な治療法というものがないため、予防をおこなう上では適切な情報を仕入れることが重要となります。
この記事では、子どもに多い食物アレルギーを正しく判断できる方法や、アレルギーの検査方法・タイミングについてご紹介します。
意外とある?離乳食開始から気をつけるべき食材
離乳食をはじめたばかりの赤ちゃんは、消化吸収機能が未熟で、アレルギーを起こしやすい体質と言われています。
日本小児アレルギー学会食物アレルギー委員会による「アレルギーと診断されたときの原因食物の調査結果」より、受診者の半数を乳児と1歳児が占めていることからも、乳児期から注意が必要であることがわかります。
アレルゲンとなる食材としては、「鶏卵」と「乳製品」が50%を超え、さらに小麦と続き、あわせて全体の70%近くを占めます。比較的初期から食べる食材としてこの3点(鶏卵、乳、小麦)に気をつけると良いでしょう。
その次に、甲殻類、果物類、ソバ、魚類、ピーナッツ、魚卵、大豆、ナッツ類、肉類と続きます。
離乳食を始める際には、ベビーフードや加工食品、インスタントの調味料を用いずに、食材を1種類ずつ試していくことがポイントです。市販の食品などを食べさせる機会が多いと、もしアレルギー反応が出てしまっても、どの食材が原因だったのかの特定が難しくなります。
離乳食初期に使う食材の注意点
最も割合の多い鶏卵においては、「卵白」がアレルギーの主原因です。卵黄のみであれば、アレルギー反応がでない方も多くいます。
鶏卵が含まれる加工食品として、マヨネーズや練り製品(かまぼこ、はんぺんなど)、肉加工食品(ハム、ウィンナー)、調理パンなどに注意が必要となります。
また、離乳食としてよく紹介されている「豆腐」ですが、原料となる「大豆」はアレルゲンとなりうる素材です。醤油や味噌は、醸造中にアレルゲンの大部分が分解されるため、摂取可能であることが多いでしょう。
また、豆腐が摂取可能であっても、納豆や豆乳のみに症状が誘発されることがまれにあるので注意が必要になります。
また、「小麦」はうどんやパン、お麩など初期から与えられる食材でもあるため注意したほうが良いでしょう。
「どう加工したか」によっても、反応が出るかどうかには個人差があるのです。我が子の食後の状態を注意深く観察しましょう。
離乳食前の食物アレルギー
私たちの身体の皮膚や粘膜に広く分布する「マスト細胞」と呼ばれる細胞は、炎症や免疫反応に関わる重要な場所です。そのマスト細胞の表面に結合して、アレルゲンを待ち構えるのが「IgE抗体」です。IgE抗体がアレルゲンを見つけ反応すると、マスト細胞は活性化してヒスタミンなどの物質を放出し、炎症反応を引き起こすのです。
「IgE抗体」によって引き起こされる食物アレルギーですが、生後6か月以内に症状がみられる「非IgE依存性(細胞依存性)」のアレルギーもあります。
それは、粉ミルクに入っている「牛乳成分」であり、嘔吐や血便、下痢などの消化器症状で発症します。
しかし、タイプが異なる蕁麻疹(じんましん)やアナフィラキシー症状など、即時型である「IgE依存型のアレルギー症状」としても牛乳が該当することがあるため、注意が必要です。
また「乳糖不耐症」といって、牛乳に含まれる「乳頭」を消化する酵素のちからが弱いことから、下痢などを引き起こすこともあります。アレルギーとよく間違われる症状の1つとして、覚えておくと安心です。
子どものアレルギー検査は、いつ受ける?
一般的にアレルギーの症状は、
などがあります。
食物アレルギーは主に、皮膚炎がなかなか外用薬で治らないときに、食物アレルギーの疑いをかけ検査することが多くなっています。また、食物アレルギーとアトピー性皮膚炎を合併している乳幼児は約40%いるため、アトピー性皮膚炎の疑いがある場合には注意が必要になります。
また、家族にアレルギー体質の人がいる場合、アレルゲンとなりやすいタンパク質である「卵」や「乳製品」の摂取には慎重になったほうが良いでしょう。家族にアレルギーの人がいなければ基本的に検査は必要ありませんが、陰性と判明することで安心して子育てできるのであれば、離乳食開始前に検査を受けることも可能です。
事前確認のための検査は、鶏卵と牛乳の検査でじゅうぶんと言われています。鶏卵や牛乳にアレルギー反応がないのに他の食品でアレルギー反応を起こすことは、極めてまれだからです。
また、生後3か月以内に検査をすると陽性にならないことがあるので、生後5か月ごろから受けるのがおすすめです。
アレルギー検査の方法は?どんな内容?
アレルギーを診断するために、血液検査や皮膚検査がおこなわれています。湿疹などの症状が直らない場合、医師による問診などもふまえ、適切な検査が選択されるのが一般的です。そこで、まず食物アレルギーの疑いがある場合におこなうアレルギー検査についてご紹介します。
「特異的IgE抗体検査」や「皮膚検査(プリックテスト)」などで陽性となった場合、より正確に判断するため「食物除去試験」や「食物経口負荷試験」が必要になります。
「特異的IgE抗体検査」や「皮膚検査(プリックテスト)」は、食物アレルギーかどうかを判別するのには診断感度の高い検査ではありますが、特異度(陰性のものを正しく「陰性」と判断する確率)については低い検査です。
そのため、本当にアレルギーの原因であるかを確定判断するには「食物経口負荷試験」が最も信頼度の高い検査といわれています。
血液検査
血液検査の一種である「血中抗原特異的IgE抗体検査(RASTなど)」は、陽性だとその食物に感作していることを示します。アレルギーかどうかを数値として判断することが可能です。
また、アトピー性皮膚炎の経過中の場合、肝機能障害や鉄欠乏性貧血、低蛋白血症などがみられることがあるので、必要に応じて一般的な血液検査もおこなわれます。
皮膚検査(プリックテスト)
皮膚検査である「皮膚プリック試験(プリックテスト)」は、アレルゲンを少量皮膚に入れて、15分後に膨らんだ湿疹の直径を測定するものです。
抗原特異的IgE抗体検査では検出が難しいアレルギーの原因抗体の早期診断において、有効とされています。
食物除去試験
特異的IgE抗体検査や皮膚検査(プリックテスト)にて食物アレルギーの関与が疑われる場合、疑わしい原因食物を1週間程度完全に除去します。これにより湿疹が改善された場合には、診断を確定するため食物経口負荷試験に進みます。
母乳育児の場合、母親の食事内容が症状に出ることもあるため、この場合は母親の食事内容からも、原因となる食物の除去が必要になります。しかし、重篤な症状になることは少ないため、加工品などは食べても大丈夫な場合が多いでしょう。
食物経口負荷試験
食物経口負荷試験は、少量の食物を実際に食べて体内に摂り入れ、アレルギー反応を観察・判断するものです。この試験によって、命にかかわることもある重大な症状「アナフィラキシー」を起こすおそれがあります。
そのため食物経口負荷試験は、突然の症状に対応できる限られた病院が実施しています。
赤ちゃんの身体には負担が高い試験ではありますが、最も信頼性が高い診断方法であり、診断には必須の検査となります。この試験については、食物アレルギー研究会より、日本小児科学会指導研修施設の小児科を対象に実績などが開示されています。病院数が多くないので、施設を探す必要があるでしょう。
小麦・大豆アレルギーの診断は容易ではない
「血中抗原特異的IgE抗体検査」で、小麦と大豆については「診断として一定の傾向が得られにくい」とされています。そのため、小麦や大豆のアレルギー診断は容易ではありません。例えば、大豆アレルゲンは数種類あるため、アレルギーが出る場合と出ない場合があり、また実際の症状も消化や吸収の影響を大きく受けます。
さらに、小麦がアレルゲンとなるタンパク質には大きく3種類あります。グルテン内のフリアジンは、α(アルファ)、β(ベータ)、γ(ガンマ)、ω(オメガ)と区別があり、さらに細分化されているなど種類が豊富です。
血液検査で陽性が出ても問題なく食べられる食材があったり、まだ検査をしていない抗原によってアレルギー反応がでてしまうこともあります。そのため、実際に食べたものと症状の出方を記録して、抗原を突き詰めることが重要です。
アレルギーを恐れるあまり神経質になりすぎるのも、子どもにとってはマイナスになります。主治医による定期的な検査や、経過観察をしてもらいましょう。
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「検査結果」と「症状」は必ずしも一致しない!?食べて何も起こらない事実が優先される
「特異的IgE抗体検査」や「皮膚検査(プリックテスト)」などで陽性診断が出た場合でも、今までその食材を使った食事で何も変化が出ない場合には、特別な除去はせずこれまでどおり離乳食を進めても問題ありません。湿疹など体調に変化が出た場合には、改めて追加の試験をおこなっても良いでしょう。
無作為に抽出した乳児に対し、卵白の血中抗原特異性IgE抗体検査をすると、約20%が陽性になるという報告もあります。そのため、広くおこなわれている特異的IgE抗体検査やプリックテストだけで判断してしまわないほうが良いでしょう。
もし自分の子どもがアレルギー持ちだったら!アレルギー除去食による栄養不足の心配は?
子どもに多い「鉄欠乏症」。牛乳や卵のアレルギーがある場合、鉄分が不足しないか心配になるお母さんも多くいます。実際に、除去食によって鉄不足やその他の栄養不足になってしまうことはあるでしょうか。
鉄不足について心配する場合
母乳育児であるならば、母乳中にも鉄は含まれていますし、母乳中の鉄は吸収が良いので鉄不足について心配する必要はありません。しかし、母親が鉄不足になると鉄分が少なくなるおそれがあるので、お母さんもバランスの良い食事をこころがけ、鉄分が多い食材を積極的にとると良いでしょう。
また、赤ちゃんは、胎児の頃に鉄分を体内に蓄えて産まれてきます。早産児や低出生体重児、胎内発育不全児などでなければ、生後半年から1年ぐらいは母乳から摂取する鉄で必要な量を賄うことができます。アレルギー用の粉ミルクも、一般的な粉ミルクと同様に鉄分のの補給に役立ちます。
まぶたの裏側が白っぽいなど貧血を疑う症状がある場合には、血液検査を受けて鉄剤などを処方してもらうことができます。
また、ビタミンCは鉄分の吸収を高めてくれる栄養素です。新鮮な野菜や果物を、積極的に離乳食で取り入れるのもおすすめです。
アレルギー素材別、代替食材での栄養の補い方
鶏卵のM玉(約50g)あたりに含まれるタンパク質は、6.2gとされています。これは、鶏・豚・牛肉の場合30g、魚30g、絹ごし豆腐120g、牛乳180mlで代替することが可能です。複数の動物性・植物性タンパク質をとることで、容易に代替することができます。
牛乳アレルギーの場合、タンパク質については他にも代用できる食材はたくさんあるので、「カルシウム源」としての代替を考える必要があります。
牛乳コップ半分の90mlには、カルシウムが100mg入っています。牛乳アレルゲン除去調製粉乳は180ml、木綿豆腐83g、小松菜60g、ひじき(乾物)7.1g、ししゃも(生干)33g(1.5尾)となっています。
小麦は、主食を米にすることで解決するでしょう。
アレルゲンによるアナフィラキシー症状に注意!
「食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)」は、特定の食物を摂取後、運動の負荷によって「アナフィラキシー」が誘発される疾患の事を指します。発症はIgE依存性です。
原因となる食材は「小麦」と「甲殻類」が多く、ソバやピーナッツなど、アレルギー反応が強く出る食材で起きやすいといわれています。たとえ少量でも数分以内に激しい反応が発生し、場合によっては命にかかわる危険性があります。そのため、きちんと検査を受けて「何が原因でアナフィラキシー症状が起きるのか」を突き止める必要があるのです。
アナフィラキシーの既往がある方やリスクが高い方には、「エピペン(EpiPen)」と呼ばれるアドレナリン自己注射薬が処方されます。これは、医師の治療を受けるまでの間に、症状の進行を緩和するための補助治療薬です。
吐き続けたり、お腹の痛み、呼吸器の症状、意識がもろうとしたりぐったりするなど、緊急性が高い症状が出たら使用します。
緊急の場に居合わせた関係者が、エピペンを使用できない状況に陥った本人の代わりに注射をすることは、医師法違反とはなりません。
まとめ
食物アレルギーには、検査結果と実際の症状が一致しない方も多くいますが、「実際の症状が出なければあまり気にしないで良い」というのが医師たちの見解です。
しかし、1つの食材に含む「アレルゲンとなるタンパク質」は1種類ではありません。今まで大丈夫だった食材であっても、突然アレルギー反応が出ることもあるので注意する必要があります。
アレルギーテストは、小児科や内科、皮膚科などでおこなえます。気にしすぎるあまり食事づくりが怖い場合、自主的にテストをおこなってはっきりとさせるのも1つの手段です。
【参考・引用・関連リンク】
食品アレルギー診察ガイドライン2016 日本小児アレルギー学会
https://www.dental-diamond.jp/conf/nakakohara/allergy_2016/html/index.html
食物アレルギーの栄養食事指導手引き2017
https://www.foodallergy.jp/tebiki/
喘息予防のためのよくわかる食物アレルギーの基礎知識
https://www.erca.go.jp/common/img/yobou/uploads/kanjazensoku/ap027.pdf
ぜん息予防のためのよくわかる食物アレルギー対応ガイドブック
https://www.erca.go.jp/yobou/pamphlet/form/00/pdf/archives_24514.pdf
専門家が答える妊娠・出産・子育て事例集
著者:母子衛生研究会 編集協力、出版社:母子保健事業団