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アメリカでは一般的な《乳児からの一人寝》。日本では基本的に《同じ部屋・添い寝》がメジャーですね。しかし最近は国内でも「自立心を促すために乳児のうちから子供部屋で寝かせる」といった声も聞かれます。
また「友人の子供はもう一人寝をしているのに、ウチの子はまだ添い寝……。いつまで添い寝していて大丈夫なの?」といった心配も、インターネットなどではよく見かけます。
そこで今回は、添い寝と一人寝は幼児にとってどちらが適切なのか、それぞれのメリット・デメリットを調べてみました。
洋画でも良く見る!アメリカの子供は”子供部屋で一人寝”がキホン
アメリカやヨーロッパなどが舞台になった映画やドラマでは、小さい幼児や乳児でも子供部屋で一人で寝ているシーンを目にします。親子が一緒に寝ている場面は、なかなか見たことがないのではないでしょうか。
欧米、とくにアメリカにおいては「子供が自分自身をしっかりと支える力である”自立性”を育てるためには、一人で寝ることが重要である」という考えが根付いています。
この考えが根付いたきっかけは、アメリカのカリスマ小児科医Ferber(ファーバー)医師が1985年に出版した育児書「Solve Your Child’s Sleep Problems(子供の睡眠問題を解決)」の中で「添い寝はよくない」ということを記載したことが起因します。その当時は「添い寝は子供の自立性が育たない」という理由で、否定的な意見が多かったのです。
しかし、この育児書は2006年「添い寝は生後6ヶ月までおこない、遅くても3歳までには親のベッドからの独立させるべき」という内容へと改定しました。それは、ファーバー医師が”添い寝否定派”から”添い寝肯定派”へと立場を変えたためです。
それでも、日本での一般的な考えと比べ、かなり早期での一人寝を開始することが推奨されています。
ちなみに「添い寝」といえば、私たちは布団を並べたり、同じ布団で横に並ぶ「川の字」をイメージしますよね。しかしアメリカでの「添い寝」とは、親の寝室にベビーベッドを置き、ベッドが別々であっても同室で寝ることをも「添い寝」として考えられています。したがって、完全に部屋も別々にして寝ることを「一人寝」としているのです。
こうした背景には「子供ができたとしても夫婦の時間を大切にする」という面での”熱量”に関する、各国での考え方の違いも関係するでしょう。日本人の多くは、子供が生まれると自然に「赤ちゃんが最優先、自分(大人)のことは二の次」という思考に行き着くことが多く見られます。
0歳であっても個人として認識し「夫婦の時間には介入しないでほしい」という考え方を持っていることも、海外における”赤ちゃんの一人寝”がメジャーである理由となっています。
日本では”添い寝”がメジャー。毎晩の寝かしつけは親の習慣に
日本において、子供と親が一緒の布団やベッドで寝る「添い寝」は、昔からおこなわれてきた習慣です。親子のコニュニケーションの機会としても重視されており、日本の育児書でも、より多くの時間で子供との「身体の接触」や「心の交流」をすることを勧めています。
眠りにつく前の会話や子供が寝入った後の寝顔を見る機会、お互いが眠っても無意識のうちに身体が触れ合うことによる精神的効果などが重要視されているのです。
また日本では、幼児期において「子供が自立している」ことよりも、家族との密接な関係を築いたり「他人と支え合うことができる能力」を持つほうが、教育面で重視されている点も関与します。「添い寝」は親子の関わり方として、多くの家族が自然と取り入れているコミュニケーション法なのです。
1960年代におこなわれた研究では、1~5歳の子供が添い寝(同室での就寝を含む)をしている割合は98%であるというデータがあります。それから日本でも1960年代~1970年代にかけ、外国に倣った「一人寝」の考え方が入り、添い寝の割合が減少しています。
しかし、1985年に大幅改定された母子手帳の副読本「赤ちゃん」が「抱っこや添い寝は乳幼児に安心感を与える」と積極的に評価したこともあり「添い寝」は再認識されていったようです。
兵庫教育大学の吉田氏が、4歳児と5歳児を持つ親374名に対し、2013年~2014年にかけておこなった「添い寝の実態調査」によると、男児では84.4%~92.1%・女児で85.3%~92.9%という確率で添い寝がおこなわれていたことがわかりました。添い寝の頻度も「毎日」「ほぼ毎日」と回答した方が90%超であり、添い寝が習慣としていることがうかがえます。
添い寝をしている理由としては「コミュニケーションをとり、子供が安心して眠れるようにする」や「夜に子供が体調を崩したり、目を覚ましたときに対応する」が多く挙げられていました。
「寝室が一つしかないから」といった回答もあり、個室の数が欧米諸国とは異なる点も、添い寝が常習化している理由かもしれません。
一人寝vs添い寝、結局子供にとって良いのは?それぞれのメリット・デメリット
結局のところ「一人寝」と「添い寝」子供にとってどちらが良いのでしょうか。それぞれのメリットとデメリットを見ていきましょう。
《一人寝のメリット》一人寝は「事故防止」に!熟睡効果も◎
欧米で一人寝を推奨している理由の一つに「窒息が防止できる」というメリットが挙げられます。
アメリカで2011年~2014年に発生した乳幼児突然死症候群(SIDS)において、14%にあたる250人の死因が「窒息死」であることが判明しました。そのうち「添い寝をした人の体の一部で圧迫される」という原因が19%を占めているのです。
東京慈恵会医科大学の重田氏による別の調査では、44例中15例が「添い寝中」に死亡しており、そのうち大人の身体の一部が覆いかぶさっていたのは13例という結果もあります。
こうした、大人によって引き起こされる子供の窒息は、一人寝をすることで完全に防ぐことが可能です。
また、乳幼児突然死症候群(SIDS)の一種である、健康にみえていた乳児が睡眠中に予期せず突然死亡する症状「予測不能乳児突然死(SUID)」については、生後6ヶ月までの乳児における死亡がほとんです。そのため、前述したFerber(ファーバー)医師らは、添い寝は生後6ヶ月まではおこなうべきとしています。
一人で寝ることが当たり前にできるようになると、途中で目が覚めてしまっても、泣いて親へ訴えることもせず自分で自然に眠ることができるようになります。なかなか眠れず、夜泣きなどで子供(大人も)の睡眠時間が削られる時間が少ない、という利点もあるようです。
一人寝によって生じる《デメリット》とは?
前項でも挙げた乳幼児突然死症候群(SIDS)の原因の一つに「うつ伏せ寝」が挙げられます。そのため寝返りがうてる月齢になると、寝相の状態が心配になるものです。
アメリカ小児科学会(AAP)のガイドラインでも「ベッドは別であっても、生後12ヶ月までは親と同室で寝る」ことを推奨しています。就寝中の異変にすぐに気づき対応するためには、やはり同じ部屋で眠る方が即座に行動できますよね。
より早く気付くため、無呼吸アラームなどを検討してもよいかもしれません。
また、赤ちゃんは、毛布や掛ふとんを掛けていても蹴ってどかしてしまうことがよくあります。夏の時期であればそこまで心配することはないですが、それでもエアコンをつけている場合は心配ですし、とくに冬の時期であれば寒さが気になります。室温以外にも、毛布が顔に掛かってしまい、窒息に繋がる事故についても心配です。
一人寝の場合、これらの点に気づくことが難しくなるでしょう。添い寝であれば、気付くのも早く、すぐ対応することができます。
一人寝における母親の別の負担として「授乳のたびに部屋を移動しなければならない」という点も挙げられます。別の部屋まで歩いて行き、授乳をし、起こさないようにそーっと部屋を出て、自分のベッドに戻る……ということを一晩になんども繰り返さなければならないのは、地味に手間ですよね。母親の睡眠不足を助長することにもなりかねません。
《添い寝のメリット》添い寝は子供の「安心感」を助長!家族の絆が深くなる
つぎに、添い寝をすることのメリットについてご紹介します。
兵庫教育大学の吉田氏は、大学生421人に対し、添い寝のイメージや思い出について調査しました。ここでは「あたたかさ」「安心」「優しさ」「不安解消」「家族愛」といった、ポジティブなイメージを多く挙げている調査結果が得られています。
同じく吉田氏が4~5歳児を持つ親におこなった調査結果では、子供の頃に添い寝をしてもらった経験が無い親は、自分の子供に「添い寝をしたことがない」割合が6.4%となりました。一方、親と添い寝をして育った親は、自分の子供と「添い寝したことがない」と答えた割合が0%だったことがわかったのです。
この結果から、子供と添い寝をすることに対して実際に体験した場合に「良いこと=自分の子供にもしたい」という意識を、誰もが持っていることがわかります。
怖い夢を見た時に親に添い寝をしてもらうことで、子供は安心するものです。このような「安心感」から、家族の絆・信頼感も深まっていくのではないでしょうか。
ちなみに、吉田氏がおこなった調査において多くの方が「”川の字”が理想的である」と回答した割合が高いことも注目に値します。多くの家族が家族間のスキンシップやコミュニケーションとして、添い寝を実施しているようです。
《添い寝のデメリット》添い寝を続けると「対人依存」に!?
親子とのコニュニケーションの一つとして「添い寝」を取り入れている家庭が多いのは事実ですが、添い寝を続けることで発生するデメリットはあるのでしょうか。
篠田有子氏による著書「子どもの将来は「寝室」で決まる」では、添い寝における子供と親の位置関係によって、自立心や社会性の形成に与える影響について述べられています。それは以下の通りです。
この結果をどう取るかは”親次第”とも言えるかもしれません。
また、前項と同じ兵庫教育大学の吉田氏が「添い寝」の経験の有無に関連し、対人依存として「情緒的依存欲求」と「道具的依存欲求」について大学内で調査しました。
「情緒的依存欲求」とは”気遣ってほしい・慰めてほしい”といったもの、「道具的依存欲求」とは”手伝ってほしい・代わってほしい”といった対人欲求です。
その結果、添い寝経験の有無で「情緒的依存欲求」についてほぼ同じでしたが、他者への「道具的依存欲求」については《一人寝の方が低い》という結果が得られました。
しかし、添い寝の経験があると回答した人たちは、他の人からの「道具型依存欲求」に対し「受け入れる」という”相互関係”を成立している割合が高いのは注目に値するポイントです。
これは、自分たちが受けてきた「いたわり」や「励まし」といった行動をもとに、前述した「情緒的依存欲求」を、自然と相手に向かってできるようになっていっているということなのかもしれません。
子供は「求めれば叶えてくれる」という体験を繰り返し、大人との相互作用の積み重ねによって心が満たされ、その安心感から《積極的な探索行動》へと移ります。そしてそれが、「自立」へと繋がるのです。
”添い寝によって対人依存がより高くなる”という結果になってはいますが、必ずしもデメリットだらけ……というわけでもなさそうです。
筆者の上の子供にも、下の子がお昼寝から目が覚めて泣いた時など「ポンポン」と優しくなでている様子が見られます。自分が受けた親からの行動を、他の人にも提供してあげる姿勢が、自然と形成されているのかもしれません。
添い寝をするときの注意点
添い寝をする時に注意していただきたい点についてご紹介します。添い寝による不幸な事故も少なくありません。ぜひ参考にしてみてください。
親の生活リズムに合わせない
子供が寝る時間を、親の生活リズムに合わせないことは重要です。
最近では「子供の睡眠不足」が指摘されており、それは親と生活リズムを合わせていることが、原因の一つとして挙げられています。添い寝をするのであれば、寝室は子供が寝る時間には暗くし、睡眠を妨げないようにする工夫が必要です。
手間かもしれませんが、親が子供と一緒の時間に眠らない場合、添い寝を卒業するまでは「寝かしつけ」をし、親が眠る時間まで子供を付き合わせないように工夫しましょう。
窒息に注意する
添い寝で最も気をつけたい点が「窒息」です。
就寝時における新生児の窒息事故は多く、原因が「親との添い寝」であるケースも少なくありません。そのため乳児の頃などは、両親の間に寝かせるよりも、母親の横だけに寝かせるなどし、片側のみが親と接するようにするのもポイントの一つです。
寝相が心配な場合には、乳児用のベッドガードやクッションなども販売されているので、使ってみても良いかもしれませんね。
筆者の場合、夫婦が寝るベッドと同じ高さにしたベビーベッドを横に設置し、親のベッド側の柵は開けて子供を寝かせていました。厳密には寝ているベッドは異なりますが、添い寝で、添い乳もできる状態です。
寝具を分ける
子供と大人の感じる温度(室温・気温)は異なり、平熱が高い子供はとても暑がりです。大人の基準で寝具を使っていると、子供にとってはとても暑くて汗をかき、それが冷えて風邪をひいてしまうかもしれません。
そのため、寝具の上から掛けるものについては、それぞれ子供と大人で用意しておくのがおすすめです。また、子供は暑くなくても上に乗せているものをどかしてしまうことがあるので、スリーパー(着る毛布)などを使うのも良いでしょう。
まとめ
一人寝・添い寝の各メリット、デメリットについてご紹介してきました。
日本において、理想とする添い寝の頻度を「毎日」と答えた人は50%にものぼります。「添い寝をいつまでするのが理想であるか」という問題については「小学校にあがるまで」と答えた割合が50%以上「中学校にあがるまで」が約40%となっており「小学生の間は一緒に寝る」とする家庭も多いようです。
多くの家庭では、小学生になったら・中学生になったら……という区切りで一人部屋を持ちはじめ、それに応じて「一人寝」にシフトしていくケースが多くなっています。
眠りにつくときには、何かしら習慣化した準備行動(入眠儀式)がほとんどの子供に認められるため、一人寝に慣れるまでは、お気に入りの寝具やぬいぐるみなどを用意してみるのはおすすめです。
睡眠の面でもいつかは手を離れる子供ですから「添い寝」を選んだ親としては、一緒に眠れる”今”のうちに、あたたかいコミュニケーションを取りたいものですね。
【参考・引用・関連リンク】
Gilda A. Morelli Edward Z. Tronick (1992). one among many? A comparison of forager children’s involvement with fathers and other males, Social Development1, 35-54
ボストンカレッジ モレリ博士
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/j.1467-9507.1992.tb00133.x
William Caudill, Helen Weinstein (1969), maternal care and infant behavior in Japan and America, Psychiatry32, 12-43
National institute of mental health bethesda (NIH)
https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/00332747.1969.11023572
・添い寝をしている実態数
吉田美奈、浜崎隆司、黒田みゆき(2018) 幼児の添い寝に関する実態調査、上田女子短期大学紀要第41号
https://uedawjc.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=1769&item_no=1&attribute_id=22&file_no=1
・添い寝の影響
吉田美奈、浜崎隆司、上岡紀美 (2017)添い寝が対人依存ー依存容認に及ぼす影響、家庭教育研究23、15-28
http://hesoj.com/activity/pdf/22-2.pdf
吉田美奈(2019) 添い寝が子どもの心理的発達に及ぼす影響 兵庫教育大学
http://repository.hyogo-u.ac.jp/dspace/bitstream/10132/17769/1/%E5%90%89%E7%94%B0%E7%BE%8E%E5%A5%88%EF%BC%BF%E6%9C%AC%E6%96%87.pdf.pdf
・添い寝の注意点
睡眠中乳児窒息死の実態とその危険因子(添い寝も一つの原因)
https://pdfs.semanticscholar.org/d594/c393f1dc0198157a18c0989b1b3e64e0c0f9.pdf