目次

日本の子供、5人に1人において何らかの「チック症状」がみられるとも言われているほど、チックは身近な現象です。ほとんどの場合は親も気が付かなかったり、医師も病気として診断しない程度のものですが、症状が目立ち、成人期まで残るものもあり重症度はさまざまです。
一度目についてしまうと、いつまで続くのか、自然と収まるのを待って良いのか、親としては気になるものです。

この記事では、そんな子供のチック症状の種類や、より早く収束させるため親はどんな態度でいるべきか、また治療法はあるのかについてまとめました。

【症状】「これもチックなの?」子供にみられる、チック症状あれこれ

チックとは、自分の意思とは関係なく、突発的にすばやく・一定のリズムで繰り返される不随(ふずい)運動、及び発声と定義されます。

よく見られる症状としては、

  • まばたき
  • 首すくめ
  • 顔の表情を変える
  • 咳払い
  • 鼻慣らし
  • 汚言症(汚い言葉を付随的に発する症状)
  • 反響言語(他者が話した言語を繰り返して発声する)
  • など多種あり、初期の段階で出てくるものや重症化した場合に出てくるものなど、さまざまなタイプがあります。

    アメリカの精神医学会が作成した「精神障害と統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)」によると、チック症状は「神経発達障害」の一つとして位置づけられています。これは、多くが成長とともに症状が消える、脳の神経系の疾患です。

    チックは、

  • トレット症(トゥレット症)
  • 持続性運動チック症
  • 接続性音声チック症
  • 暫定的チック症
  • と細かく分類されています。

    ここでは、まず最初に出始めるチックの種類や状態、そして症状の重さについて、東京医科大学小児科を受診したチック症患者107名の統計結果をもとにご紹介します。

    顔面チック

    まばたきや鼻孔をふるわすなど、おもに顔面に発生するチックを指します。東海大学病院小児科を受診した107名のうち55名に顔面チックが出ており、大多数のチックがこれに当てはまります。そのうち43名に「まばたき」が発生していました。初期症状として多くのチックが顔面から始まるのが多い傾向があります。

    頭顎肩のチック

    肩をビクっとさせるなど、頭顎肩のチックを指します。前項と同じ統計では、107名のうち32名がこの症状でした。そのうち、26名が頭を振る症状が出ているようです。顔面チックと同様に、初期症状として出ることが多い傾向があります。

    四股胸腹のチック

    手をビクっとさせたり、髪をかき上げるなど、四股胸腹のチックをさします。107名のうち7名がこのチック症状でした。
    四股胸腹のチックは、顔面チックや頭顎肩のチックの発症後に、経過を追って症状が出てくることが多いようです。そのため、重症化した場合に出てくるものとして考えられています。

    発声チック

    咳払いをしたり、鼻をならす、喉音のつまりなど発声によるチック症状です。107名のうち13名がこの症状が発生していました。これも四股胸腹のチックと同様に、顔面チックや頭顎肩のチックの経過を追って症状が出てくることが多いようです。そのため、重症化した場合にくる出てくるものとして考えられています。

    【原因】どうして起こるの?チックになる子、ならない子

    昔は、家庭や学校でのストレスなどが主な原因とされてきていましたが、今は神経系の発達問題が原因ということが明らかになってきています。しかし、ストレスは、チック症状へ非常に強い影響を与えることがわかっています。
    ここでは、どんな子・また環境が、チックを引き起こしてしまうのか見ていきましょう。

    子供のチックが出やすいのは《5歳〜8歳頃》

    前述の東京医科大学の小児科を受診したチック症患者107名のうち、発症年齢には2歳~12歳という幅がありましたが、その中でも3歳から8歳がピークであることがわかっています。男女別にみてみると、男児は3歳と5〜8歳が多く、特に6〜8歳に最も集中していました。一方女児は、3歳での発症がピークとなっています。

    このように、3歳ぐらいからチックの症状が出現し始めますが、5〜8歳と年中~小学校低学年ごろが最も多いようです。また、男女比としては男児が81人、女児が26人と約3:1で男児の方が多い傾向があったように、一般的に男児のほうが発症する割合が高いことがわかっています。

    《心身的ストレス》は、チックを誘発するきっかけに

    神経系が原因とされているチックですが、症状が現れる原因のひとつとして心身的ストレスが考えられています。大人にとっては些細な出来事であっても、子供にとってはとてもストレスに感じることが多いのです。

    実は、多くの子供が母との関係を中心としたことが原因でチックが出てきてしまう、といった傾向が多く報告されています。例えば、叱られたことなど些細な出来事から発症したり、妹や弟の誕生で母と子の関係が大きく変わったことで発症してしまったなど、さまざまな要因によって誘発されることがあるのです。

    筆者の息子にも、5歳の終わり頃、鼻を中心に顔をクシュっと縮めるようなチックが見られるようになりました。この時期は、この子にとって初めての引越しの後であり、1歳の弟の面倒を見るよう母である筆者に急かされたり、筆者自身も妊娠中であったため、息子にストレスとなるような言動をしてしまっていたのではないかと、振り返ってみると推測されます。

    また、チックをやめさせようとすると、かえってチックを気にするようになり、症状が悪化してしまうことも。「動かさないの!」と注意して、チック症状を阻止しようとするのはおすすめできません。

    まばたきなど、顔面に現れる微細なチック症状が主体の場合、それはまだあまり重い症状ではないことがほとんどです。専門家が母親に対し、チックについて十分に説明することで不安を解消すること、そして子供へはチックについて口出ししないようにするだけで軽減した、という多くの症例が報告されているのです。

    《物理的刺激》もチックの原因に

    精神的なことが原因でチックが出ると思われがちですが、物理的刺激もチックの原因となりうるのです。
    例えば、結膜炎になった子供がいつもと違うまばたきをしたことで「まばたきチック」が出てしまうこともあります。また、頭をどこかにぶつけ打撲が起こると、その場所が気になってしまい、無意識に頭を振りはじめることも。それが元で、頭を振るチックとして定着することもあるのです。

    このように物理的な刺激からもチックが発生することがあるため、ストレスばかりを気にしないことが重要です。どのような子供でも、些細なきっかけでチック症状が出ることがあるので、日頃から子供の様子や病気・怪我などを確認しておくことがポイントになります。

    子供にチックを指摘してはいけない!

    チックが出てきてしまったあと、心身的なストレスによって持続・増強させてしまうことがわかっています。先にも触れましたが、周りの大人やお友達が「○○くん、その動きやめなよ」と伝えてしまうことで、本人の意識をチックに集中させてしまい、症状がより強くなってしまうことがあるのです。

    家庭内でも「みんなが自分の動きを見ているのではないか」と、その子供にとっては緊張した状態を作ってしまい、それによってチックが強くなったり、いつまでも続いてしまう傾向があります。また、チックがあるために子供が劣等感を持ったり、自信をなくしてしまうといった心への影響も、チックがより強く出てしまったり継続してしまう原因になるのです。

    このように、周りからの影響による心身的なストレスによって、早期に治せる状態のチックであっても、治まるまでに時間がかかってしまうことがあります。

    チックは治せる?病院で行う治療、家で行う手あて


    チックは治療することが可能です。治療の種類は、受診時の年齢やチックの種類・出現部位など、さまざまな状況を踏まえて決められます。
    ここでは、病院で行う治療や家庭内でもできる手あてについてご紹介します。

    子供に十分に説明するだけで、症状が緩和するケースも!

    病院を受診したときに、まず行われるのがチック症についての詳細な説明を医師から受けることです。「チック症」を理解することが重要であり、しっかりと説明を受けることで、症状が軽減したり頻度が減るケースが多いのです。これは、症状が出ている子供本人もですが、母親や家庭内の不安の強さも影響しています。そのため、母親を含めた家族は、チック症状が出ている子供を否定するのではなく、子供をしっかりと受け入れ安心させることが重要なのです。

    また、脳の発達を促すための環境を家庭で整えてあげることも必要です。例えば、睡眠と覚醒の正しいリズムを整えたり、日中は体をよく動かしたり歩くなど、手足を交互に使う運動はおすすめです。早寝早起きの生活リズムの維持は、脳にとっても大切なことであり、運動は神経の安定した成長には不可欠です。大人の生活時間に子供を巻き込まないよう、しっかりと環境を整えてあげましょう。

    長期にわたるチック、受診は「なに科」にかかればよい?

    5歳以下で発症するチックは1〜2ヶ月で消失することが多いのですが、6歳以上で発症すると、5歳以下と比較して継続する傾向がみられます。気になるほど長期間に渡る場合は、不安を解消するためにも一度受診するのが良いかもしれません。

    「まばたき」のみで他のチックがない場合には、眼科外来で経過をみていくのが一般的です。その他、頭を振るなどのチック症状がみられる場合には、治療も長期にわたるため専門外来へ行くのが良いでしょう。例えば、小児神経科や心療内科・精神科がそれにあたります。専門的なことがわからない場合、まずはかかりつけの小児科の先生へ相談し、紹介状を書いてもらうのも良いかもしれません。

    また、チックには世界的に行われている治療のトレーニング方法があります。よく使われるのが「ハビット・リバーサル法」「セルフ・モニタリング法」「負の練習法」です。

    「ハビット・リバーサル法」は、チック症状が起こるたびに、それとは両立ができない拮抗する行動を行い、チック動作を消失させるものです。これは、拮抗する動作が重要なのではなく、チック症状に対する意識度を高めることが目的です。例えば、鼻の奥を鳴らすチック症状の場合、顎を引き寄せます。試してみると分かりますが、顎を引くと、鼻を鳴らすのが難しくなります。これを利用するのです。

    「セルフ・モニタリング法」とは、チック症状が出た時間や場所などの記録を患者自身に取らせる方法です。この方法は「ハビットリバーサル法」と併用することが効果的なため、一緒に行われることが多いものです。患者にチック症状が出たことを意識付けさせることがポイントとなります。

    「負の練習法」は、なくしたいチック症状を意図的に反復させるという逆説的な技法です。チック症状を意図的に何度も集中的に反復させ、その後一定の休息を与える、という家庭で行う治療法となります。これは、反復させることで疲労感や徒労感を学習させ、症状を消失させるのが目的です。

    このように、長期化するチック症状は、気にさせずなるべく出させないようにするのではなく、症状が出ていることを意識付けさせることが鍵となります。

    しかし、一般的な子供のチックは、成長とともに消滅するものです。見守りや、意識させないことによって軽減していくはずの症状に対し、上記の治療法を自己判断で施すのは逆効果になってしまう可能性があります。チックを持ち、それを治したいと思う大人とは違い、子供にとっては辛い治療過程となる場合がありますので、自己判断で行わないようにしましょう。

    チックに投薬治療はある?

    長期化するチック症状は「ハロペリドール」と呼ばれる精神安定剤が処方させるケースがあります。この薬は、神経の伝達物質であるドーパミンの受容体をブロックする作用をもつ薬であり、神経異常を整えることができます。

    しかし、チックが1年以上継続している場合などにおいては、ハロペリドールの効果が十分に現れない場合や、全身性の多彩なチック症状にはハロペリドールに反応しない症例もあります。そのため、投薬治療を行うのかどうかは、専門医の診断によって決めてもらう必要があります。

    まとめ

    身近な症状の1つであるチックは、原因もいろいろな要素があり、症状もさまざまです。チックは、正しい知識の元で治療を行えば、ほとんどの人がすぐによくなるとも言われています。しかし、親の不適切な反応や言動によって、長期化したり悪化することもあります。そのため、気になる場合には小児神経科を受診するなど、初期症状が出始めたら適切な対処を行なうようにしましょう。

    ※実際の治療は、必ずかかりつけ医・専門医の指示に従ってください。
    ________________________________________

    【参考・引用・関連リンク】

    鷲見 聡 (2018 )、発達障害の新しい診断分類について~非専門医も知っておきたいDSM-5の要点~、明日の臨床 Vol.30 No.1、P1~6

    クリックして2018_3001_04.pdfにアクセス

    星加明徳(1990)、シンポジウム「小児の心身症」チック症、日本視能訓練士協会誌第18巻P26-31
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/jorthoptic1977/18/0/18_0_26/_pdf/-char/ja

    Azrin, N ,H .and Nunn , R .G .1973: Habit・ reversa1 : amethod of eliminating nervous habitsand tics,Behav.Res.Ther.11,619−628.

    クリックして1973_habit_reversal__a_method_of_eliminating_nervous_habits_and_tics.pdfにアクセス

    Horan,J.J., Hoffman,A. M. and Macri, M. 1974 : Self−control of chronic fingernail biting, J. Behav. Ther.Exp.psychiatry 5,307−309.

    Nicassto, F. J.,Liberman, R. P.,Paterson, R. L., Ramirez, E. and Sanders, N. 1972: The treatment ef ticsby negative practice,J Behav. Zher.ExP. Pbychiatrv3, 281-・287.

    LINEで送る