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最近、はしか(麻疹)の流行などがよくニュースでも話題になり、それに伴って予防接種の必要性も以前より強く言われています。一方で、様々な理由から予防接種を“受けさせない”という選択をする家庭も存在します。

そんな予防接種を受けない選択をしている家庭の話によると、病院などで「親の責任を放棄している」などと強い口調で責められたり、予防接種を子どもに受けさせるのは「義務」のように言われたりすることが多いようです。正しい知識を持つために予防接種について知り、その上で「受ける選択・受けない選択」をしていくことが大切だと思います。

予防接種が日本においてどのように変わってきたのか、その経緯と現在予防接種を受ける選択をしている人たちの意見、また受けない選択をしている人たちの意見などをご紹介しながら、子を持つ親として予防接種について考えてみたいと思います。

現在の予防接種は義務ではない

現在の日本の予防接種ですが、打っていないと病院で怒られたりすることもあると聞きます。ですが、実は「義務」ではないことをご存知でしょうか?

戦後間もない衛生環境や医療体制の整っていない時期、感染症の広まりやすかった日本で、流行を抑えるために1948年「予防接種法」が制定されました。当時は予防接種を打つことは義務であり、打たなければ罰則まで設けられていました。しかし、1960年代後半には、予防接種の副作用(副反応)として種痘後脳炎などの健康被害が社会的な問題となり、1976年に予防接種法は罰則規定のない義務接種へと改訂されました。

更に、1994年の改正予防接種法において、定期接種に課せられた「義務接種」は「努力義務」へと変更され、これまで「集団接種」という形をとっていた予防接種は、保護者一人ひとりがワクチンについての知識を持ち、個々に判断し、接種するという「個別接種」へと変わっていきました。定期接種であっても接種義務はなく、あくまで「任意」であるということを知らない方が、意外にたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。病院などに行った際に、あたかも義務であるかのように言われることも多いようです。

予防接種を受けるという選択のメリット・デメリット

そもそも予防接種を打つことには、どのようなメリットとデメリットがあるのか、良い悪いという判断を脇に置いて考えてみたいと思います。
予防接種の一番のメリットは、何と言っても死に至る可能性がある重篤な感染症を、あらかじめワクチン接種することにより、未然に防ぐことができる点です。また間接的に、病気などを理由にワクチン接種ができない人たちが、そのような感染症に感染するリスクを減らすというメリットもあります。
これだけ聞くと「予防接種を打たない人がなぜいるの?」と疑問に思う方もいらっしゃると思います。ですが、予防接種のデメリットの一つとしてあげられるのが、その「副作用(副反応)」の危険性です。(※副反応・・・免疫付与以外に出てしまう反応のこと)

予防接種を打ったがために、副作用で後遺症が残ってしまったり、最悪の場合死に至ってしまうというケースが過去に見られることも事実です。

予防接種の事故は、いつの時代も起きている

例えば、予防接種法制定直後の1948年10月、京都で行われたジフテリアの予防接種を受けた約10万人のうち、68人が死亡し、538人が後遺症を残すという大きな被害が報告されています。同じ時期、島根県でも同様の事故が発生し、京都と合わせて84人もの尊い命が失われました。原因は、同一ロットで製造された無毒化されていないワクチンの混入でした。ワクチンの品質チェックに問題があったとされています。

また、日本脳炎ワクチンにおいては、2012年4月からの1年間で重大な副作用が報告された件数は134件もあり、このうちアナフィラキシーが3人、急性脳炎・脳症が3人、そして死亡が2人、後遺症が残った人が3人だったとされています。その一方で、実際の日本脳炎の発症者数は、2012年から毎年10名程度で、その多くが高齢者です。

予防接種に関連する事故や問題提起は、時代時代において繰り返し起きてきました。ネットで検索すれば様々なニュース記事が出てきます。万が一当事者となり、予防接種を受けた後に、何らかの症状が出て後遺症が残った場合においても、予防接種とその症状の因果関係をはっきりさせることは容易ではありません。

ワクチンそのものに対するアレルギー症状や感染症に加え、製品の品質問題や医療機関での取扱いの問題など、薬害事件に巻き込まれてしまう可能性も否定できません。もちろん時代を経るごとに、安全性は向上していると思いますが、親としてはそのようなニュースが繰り返されるたびに、不安を抱いてしまうものです。
予防接種ー悩む
子どもを守るためにと予防接種を打つことが、100%のメリットになるというわけではないということは、認識しておいた方がいいのかもしれません。また、予防接種が任意接種となっている今、国の救済制度もあるとは言え、予防接種を打つときに書く同意書からも分かるように、責任は予防接種を打つことを選択した私たち親にあるという点も忘れてはいけない点です。

予防接種を受けないという選択のワケ

予防接種を受けないという選択をされている家庭の多くは、ワクチンに含まれる添加物の安全性を危惧したり、副作用を懸念している人が多いようです。

また、予防接種によって作られた免疫は、年齢を経るとともに薄れてしまうものもあります。実際にかかって免疫をつけた方がその免疫は生涯続くため、特に深刻な症状にならないようなものであれば、添加物の入った人工的なワクチンを体内に取り込んでまで予防する必要はない、という見解の人もいます。

予防接種を受けないという選択のメリットとして考えられるのは、予防接種による副作用の心配がなく、添加物による健康の被害などがないということでしょう。ワクチン接種による健康被害に対する不安を抱えることがないというのが最大のメリットかも知れません。

同時に、受けないという選択のデメリットは、稀にではあっても重篤な感染症にかかってしまうというリスクがあることです。予防接種を打ったからと言って完全に防げるわけではありませんが、そのリスクは打たない時よりもずっと少なくて済みます。

集団生活における予防接種の意味と、親としての役割

予防接種を受けていない人が、はしか(麻疹)などの感染症にかかった際に問題となるのが、他者への感染です。お腹の赤ちゃんに影響が出る妊婦はもちろん、抵抗力の低い赤ちゃんや高齢者、病気等が理由で予防接種を受けられない人も多くいます。毎年流行するインフルエンザの広がりを見れば分かるように、都市化した集団が暮らす社会では、知らず知らずのうちに、空気感染や接触で感染を広げてしまいます。

私たち親一人ひとりに判断が委ねられている予防接種。そのリスクも予防接種を受ける選択をした時、私たちが引き受けることになります。
保健所からお知らせが来たからと言って、あまり深く考えることもなく同意書にサインをし、受けている人も多いかもしれません。予防接種を受けた全体数からすれば少数かもしれませんが、接種をしたことで重い副作用に苦しんでいる人がいることも事実です。

人それぞれ考えや身体の状態が違うのは当然です。単純に予防接種が「良い」とか「悪い」という風に判断をすることはできません。どんなものにもメリットがあり、デメリットがあります。またそれを受け止める人の感情があります。私たち親は、様々な条件や選択肢をしっかりと把握し、その上で自分の子にとって何が一番いい選択なのか、その選択が集団生活である社会の中で、どのような影響を及ぼすのか、そのようなことを考えながら、ひとつひとつ判断を下していく必要があります。

子育てとは、このように答えの出ない事柄にたくさん出くわすものだと思います。予防接種だけでなく全ての事柄において、いろいろな情報を吟味し、自分の軸を持ち、判断することが、このたくさんの情報の溢れる現代社会で子育てをしている親として、とても大切な役割のように思います。

【参考・引用・関連リンク】
『子どもと親のためのワクチン読本』 双葉社 2013年 母里啓子

『はじめてであう小児科の本』 福音館書店 1984年 山田真

■日本のワクチン政策の変遷
http://www.phrma-jp.org/wordpress/wp-content/uploads/old/library/the_value_of_vaccine/the_value_of_vaccine04.pdf
■日本脳炎の感染に注意しましょう!―愛知県
https://www.pref.aichi.jp/soshiki/kenkotaisaku/nihonnouen-buta.html
■ワクチン.net
https://www.wakuchin.net/about/role.html
■薬事 温故知新「ジフテリア予防接種禍事件」
https://www.pmrj.jp/publications/02/pmdrs_column/pmdrs_column_76-47_04.pdf

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