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今子育てをしている親世代はたいてい子どもの頃、牛乳は体に良いと教え込まれてきているはずです。

「牛乳を飲まないと背が伸びないよ!」
「牛乳を飲んでカルシウムをとらないと骨が弱くなるよ!」

背を伸ばしたいために、胃腸のゴロゴロに耐えながら、毎日飲み続けた人もいるかもしれません。
昨今、そんな年代の親世代には、にわかに受け入れがたいけれど、もうすでに牛乳の神話ともいうべき健康飲料としての地位が崩壊し始めています。

負担のかかる「乳糖」の分解プロセス


哺乳類は、およそ出生時の3倍程度の体重になるまで、母乳により成長しますが、離乳期を過ぎても、乳を飲み続ける動物は人間と飼い猫くらいしかいないそうです。
なぜ、そのようなことになるのか。その答えは乳汁に含まれる「乳糖」にあります。

そもそも、哺乳動物の母乳(乳汁)の組成は、糖質、タンパク質、脂肪、ミネラルの含有量など動物の種類によってずいぶんと違います。「乳糖」とは、牛乳に含まれている糖質(炭水化物)のこと。この乳糖は、乳腺の腺細胞で作られ、哺乳類の乳汁にだけ存在する成分です。(※ただしアシカ、アザラシ、オットセイ、セイウチの乳汁には、乳糖は含まれていないそうです。)

乳糖を腸で吸収するためには、『ブドウ糖』と『ガラクトース』の二つの糖に分解する必要fがあります。その為に必要な腸内酵素が「ラクターゼ」です。
http://ja.wikipedia.org/wiki/ラクターゼ

この酵素は、妊娠7か月頃から胎児の腸内で活性が盛んになり、出産直後から最も活性が盛んになります。しかし、1歳半ごろから4歳にかけてラクターゼの活性は徐々に低下します。この生理現象は子どもの離乳期と一致します。また、赤ちゃんの歯の生えてくる時期とも並行して進んでいます。つまり、母乳中心の食事から、食物を咀嚼して食べる食事へと移行するのです。

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ラクターゼが乳糖を分解し切れなかった場合どうなるのか?


ラクターゼの処理能力を超えて、分解されなかった乳糖はそのまま大腸へと運ばれることになります。大腸には、腸内細菌がたくさんいます。今度はその腸内細菌たちが、この乳糖に反応します。腸内細菌たちは乳糖を発酵させることにより、「ガス」と「二酸化炭素」と「乳酸」に分けます。さらに、乳糖の分子が浸透圧作用によって、腸管内に水分を集めてきます。

なんとなく想像できますね。(食事中の方はごめんなさい<(_ _)>)そうです。その結果、腹部の膨満感、水溶性の下痢、放屁、ゲップという症状が出ます。
そう、牛乳を飲んだ後の、あのお腹の不快感は、乳糖を適切に分解・吸収できなかった為の結果だったのです。

世界の大半の人が乳糖不耐症!?


この消化酵素ラクターゼが少なく、乳糖を分解できずに起きる症状を「乳糖不耐症」と言います。
http://ja.wikipedia.org/wiki/乳糖不耐症

調査方法が様々あるようですが、おおむねアフリカ系黒人で90%以上、アメリカ黒人で70%、日本を含むアジア人で70~90%の人が乳糖不耐症です。
アメリカ白人、フィンランド、スイス、デンマークなどは、数%~20%程度。有色人種でも遊牧民族は20%以下と低いようです。
http://www.hajime-net.jp/Dr-Kakuta/allergy_seikatu/rakuto-sutaisei.html

アメリカ国立衛生研究所(NIH)のノーマン・クレッチマー博士が行った乳糖不耐調査の結論は、「乳糖を消化吸収できるかは遺伝的要素で決まり、生存のために牛乳に依存しなければならない場合、ラクターゼの分泌を維持するように変異してきたと考えられる。」としています。

このことからわかることは、つまり、そもそも乳糖を消化吸収できる人は、伝統的に遊牧や酪農によって生存してきた人種や民族に限るという事になります。

日本では、一般的に牛乳を飲む習慣は戦前までなかったようです。戦後、アメリカの影響を受けて、学校給食にまで必ず出てくるようになりました。これにはアメリカの日本に対する国家戦略が見え隠れしますが、その話は別の機会に譲ることとして・・・
ではなぜ、牛乳が体に良いとされてきたのか。はたして本当に体に良いのか。さらには安全な飲み物なのか?という事にフォーカスしてみましょう。

確かに、牛乳の成分だけを見れば栄養豊富(特にカルシウム)な飲み物と言えそうです。
明治 知ってミルク
雪印メグミルク 牛乳研究所

しかし、それが人体に対して本当に貢献しているかどうかは、考える余地が大いにありそうです。

カルシウムの摂取量が少ないからと言って骨粗鬆症になるわけではない


一般的なイメージではカルシウムをたくさん取らないと、骨や歯がもろくなるという感じがしますが、実際はそんなことはありません。
現在、WHOの見解でも『1日に300ミリグラム未満のカルシウム摂取量であっても、健康に害を及ぼすという確たる証拠はない』となっており、むしろカルシウム・パラドックスという現象が確認されているほどです。
カルシウムの摂取量が多い国に骨折や骨粗鬆症が多いという現象です。血中カルシウム濃度が高すぎると、逆にそれを下げるために、カルシウムの排出量が増加するといいます。また、血中のカルシウムが動脈硬化を引き起こす原因にもなりかねません。

さらに、カルシウムだけをとったからと言って、これがすぐに骨や歯になるわけでもないようです。ビタミンDやビタミンKといった物質と共にとることによって、骨代謝が良くなると言われています。

そうなってくると、牛乳に依存しなくても、魚や豆類、野菜から摂取できるカルシウムで十分足りていて、むしろ先進国の多くはカルシウムの取り過ぎくらいな感があります。
http://ja.wikipedia.org/wiki/骨粗鬆症

「野菜と果物を多く食べた子供は尿中のカルシウムの排出量が少なかった。野菜と果物の摂取量が多いほど骨密度が高いという研究結果が老若男女それぞれにある。」といった内容からも容易に想像がつくように、問題はカルシウムの摂取ではなく、果物や野菜の摂取ではないか。さらに、現代人の砂糖や動物性食品依存の偏った食生活や運動不足、日光を浴びない生活、喫煙やカフェインの取り過ぎといった別の要因の方が、骨粗鬆症になる要素が強いと言えそうです。

「骨=カルシウム!」みたいな発想はそろそろやめた方が良さそうです。

その他にも牛乳について、残留農薬の問題や、食物アレルギーの問題、虫歯に関するものや、牛白血病ウイルスが人にも感染する疑いなどなど。調べればたくさんの研究報告が出てきます。気になる項目については、一度調べてみてはいかがでしょう。

もう一つ気になる点・・・「牛乳中の女性ホルモン」


普通に生活している場合、乳牛がどんな環境でいるのかあまり気にすることはないでしょう。
乳牛のライフサイクル 中央酪農会議
調べてみると乳牛の一生はなかなかハードです。cow
お乳が出るという事は、当然哺乳類なので出産した母牛という事になります。母牛と子牛は、早々に引き離されて、母牛は乳牛として働き始めます。

毎年子牛を生み続けながら、毎日ひたすら牛乳を出し続ける。このサイクルが、4回ほど繰り返され、乳の出が悪くなってくると食肉へ回されるというわけです。

この効率化された搾乳のシステムに落とし穴があります。
牛の妊娠期間は人間に近く約280日。搾乳しない乾乳の時期(2・3か月)を除く他の期間は、常に牛乳が取れます。哺乳類では、一般的に授乳中は次の妊娠をしにくいものです。
ただこれでは牛乳の生産量が増えないので、出産後数ヶ月で次の種付けを行います。

つまり、乳牛は妊娠しながら搾乳されているという事になります。
妊娠中には、体内で大量の女性ホルモンが分泌されています。「乳=血液」ですから、牛乳の中には牛の女性ホルモンが大量に入っているという事実があります。女性ホルモンは加熱しても変性しないため、牛乳の中に残り続けます。

このことを裏付ける報告として「牛乳を飲んだ後に排出される尿中には、女性ホルモン値が高くなる」という調査結果や、ラットの子宮肥大実験なども報告されており、少なからず牛乳や乳製品から入ってくる女性ホルモンで、人体に影響がある可能性を否定できません。

戦後、動物性たんぱく質をたくさん摂取するようになり、牛乳をはじめ乳製品が日常の食事にたくさん入り込むようになってから確かに、女性の大腸がんが急増、乳がんの増加、男性の前立腺がんの増加、不妊や精子の減少、子どもの早熟など、ホルモンバランスの影響が強く関係する問題が目立つようになりました。

牛乳は完全健康食品で、ぐびぐび飲むのが身体に良い!!という価値観を受け入れてきた年代にとって、この事実を受け入れるには少し抵抗があるかもしれません。しかし世の中にはこういったことが実際にはたくさんあります。時が経てば、良さが見直さることもあれば、問題点があぶりだされるケースもある。

結論として牛乳は、子牛にとってベストな飲み物であって、人間にとってはベストな飲み物ではないという事。

牛乳はある種の「嗜好品」として認識している方が、大きな影響を受けずに済むのかもしれません。
ただ現在、乳製品は日本人の食事にしっかりと根付いてしまっている為、もはや戻ることはできません。日本人の身体に合った、地場の食材を生かし、豊かな日本食の利点を見直していく中で、バランスを取りながら食というものを考えていく必要に迫られていると感じます。

【参考・関連リンク】
『なぜ「牛乳」は体に悪いのか ―医学界の権威が明かす、牛乳の健康被害』 フランク・オスキー著 (東洋経済新報社)

『乳がんと牛乳──がん細胞はなぜ消えたのか』 ジェイン・プラント著(径書房)

『現代牛乳の魔力』
http://www.eps1.comlink.ne.jp/~mayus/lifestyle2/milkmagic.html

『牛乳、ホルモン、健康に関するワークショップ』
http://www.eps1.comlink.ne.jp/~mayus/lifestyle2/workshop.html

『WHOテクニカルレポート 骨粗鬆症の予防と管理』
http://whqlibdoc.who.int/trs/WHO_TRS_921_jpn.pdf

Image courtesy of FreeDigitalPhotos.net

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