『反省させると犯罪者になります(新潮新書)』の著者、岡本茂樹先生のインタビュー2回目です。
→1回目はこちら。
「いい子」と見られている子供が、実はとても悩んでいるケースが多いと言われます。その背後にある問題が見えてくれば、もっと良い親子関係を築くことができるかもしれません。人が「変わることができる」ポイントについて伺いました。
(インタビューは KosodateMedia 編集長の尾崎です。)
尾崎 :幼少期に親がどのような価値観で子供に接しているのかが、ものすごく大きいと感じます。
岡本 :大きいですね。
親も自分自身のことを知らないと、同じことを子供に伝えるので、同じ子供をつくってしまうんです。例えば、自分がいじめられていたとして、今の学生に聞いたらそのことを親には「言えない」と。でも自分が親になった時、子供にはそのことを言ってほしいと言うわけです。
「なんで言えないのか」という自分に対する自己理解がないと、絶対同じように子供は言わないというパターンになっていくに違いないんですよね。だから自分のことをまず理解しないと、いじめの問題も解決しないし、親に言えずに一人で抱え込んじゃう子供をつくってしまうことになります。
尾崎 :親自身がどこかのタイミングで自分の事に気づかないと、連鎖がずっと続くということですね。
岡本 :我々もどこかで「いい大人」を演じているところがあると思っていいですよね。当たり前かもしれませんが「よく見せよう」とか、「子供の前では格好悪いことをしてはダメだ」とか。そういうことをしていると、子供も「いい子」を演じることになってしまう。
尾崎 :本の中で、大人の振る舞いをする「いい子」は危険な傾向があるとありましたが、本当の気持ちを隠して本音で話していないということなのでしょうか。
岡本 :本人は「本音」になっているかもしれません。小さい頃からそれが当たり前になっていて。でも、本当はつらい思いがあるのに蓋をして生きているわけですから、どこかですっごく悪くなるんですよ。
大学の学生でも下宿している子がいますが、大学生になってガラッと変わって悪くなる子がいます。ただ、「いい子」を演じているから表面にはあまり見えない。でも悩み相談に来ると「この子、悪いことしてるなぁ」って感じます。本人もそんな自分を許してはいないんですよね。だからものすごく生きづらいと感じています。罪悪感を持ちながら、でも止められないっていうパターンですね。
尾崎 :なるほど。自分でも自覚はしているんですね。
岡本 :自覚はあります。いい子の時代があったから、わかるんですよ。決して良いことではないと。しっかりしているように見えて自尊感情がものすごく低い学生はいっぱいいますね。
尾崎 :昔の学生と今の学生で、何か傾向の変化はありますか?
昔だと喧嘩だとか物を壊すだとか割と分かり易い問題が多いように感じます。一方最近の若者によく言われるのは、陰湿になって、表には見えづらいけれども、ネットで誹謗中傷を書き込んだり、いじめをしたりと。
岡本 :傾向と言うか、立命館大学に来た時に初任者研修と言うのがあって、その時に学生部の先生たちに学生の事を色々聞いてみたら、「今の学生は真面目で素直だけれども、あまり自分の事を言いません。」って聞いたんです。まさにその通りなんですね。
素直で真面目、でも自分のことを言わない子が多いということは、しっかりした躾を受けているという共通点があるかな。でも自分のことを言わないってことは「いい子」を演じているわけで、人の目をすごく気にしている、どう思われるかを過剰に意識している。それは「いい子」ということが基準になってしまっているから、明るく振舞ってはいるけど、内面はすごい苦しんでいるっていうパターンですよね。
日本の思春期や大学生のアンケート調査を見ると、どのアンケート調査でも日本の若者の自尊感情が低いじゃないですか。そういうところに起因しているんじゃないかと思っています。
尾崎 :自尊感情が低いというのは、自分の中にある芯となるような価値じゃなくて、周りからの評価で自分の価値がどうなるか決まるという感覚が強いということですか。
岡本 :そうですね。「いい子」を演じてきていますから「自分」が無いんですよね。自分を受け入れていないってことです。
尾崎 :そう思うと危険ですね。その先社会に出て仕事などをしていく中で、同じように周りの評価や視線ばかりを気にしながら生きていかないと、自分という存在が成り立たないという感じになってしまいますよね。
岡本 :だから離職率も高いですよね。もちろん仕事がキツイっていう側面もあるでしょうけど。そういうことに疲れてうつ病などになってしまう人もたくさん出てくるわけですよ。
尾崎 :他人からの評価や視線となると、結局人間関係でダメになるということでしょうか。
岡本 :そう、結局人間関係なんですよ。受刑者はほとんど職を転々としています。刑務所に入る前も、出た後も。「仕事が嫌だった」と理由にするのですが、人間関係でつまずいているんです。それで仕事が嫌になっちゃう。長く続いたっていう人はあまり見かけないですね。
尾崎 :「素直になれない」というのが本にもありましたが、人に頼ったり弱い部分を見せたりできないのは、そうしたらダメだという価値観がずっと染みついているということなんでしょうか。
岡本 :ダメだというより、「男らしくあらねばならない」という考え方一つだけでも、もう弱い部分を出せないことにつながるわけで、弱音を吐くことは最高に恥ずかしい行為になってしまいます。逆に言えば、弱音を言うことができたら、すごい変われるってことなんですよ。だから本当のことを言える、傷ついた自分のことを話せるとなったときに変われるんです。今までにないことを経験しますから、ぐっと成長するんですよね。
尾崎 :ポイントはそこなんですね。自分の弱い所や傷ついている部分をどれだけ自然に出すことができるのか。
岡本 :ええ、本当のことをどれだけ話せるか。一番更生の可能性があるなっていうのは、それを感情を伴って表現できたときなんです。
これはこの人ぐっと変わるなと。本人も分かるんですよね、自分が変わったなって。グループワークをしていて、皆の前で自分の過去を語って涙を流すようなことができた時には、本人自身が「あぁ、そうだったんだぁ」って自分で気づいて、自信にもなるんですよ。皆が聞いてくれたっていう、人とつながる経験にもなります。このような経験が刑務所の外に出てから大事になってくるんですよ。
尾崎 :そうすると一般の家庭でも、弱い部分を出しやすい雰囲気をつくっておくことが大事なんですね。
岡本 :そうですね。弱い部分と言うか、一言でいえば「本音」を言えるってことです。「勉強しなさい」とか「~しなさい」とか、そういう言葉は言ってもいいと思うんですよ。ただそれを強制するから関係がまずくなるわけで、するかしないか行動するのは本人に任せるということです。”大事なのは本音を言える関係にあるかどうか“です。
尾崎 :今のお話でよく分かったのは、価値観でも言葉でも強制をしてしまうことで、子供の本音が出にくくなってしまっているということですね。
岡本 :ええ、閉じ込めさせているということですね。だから何も話さなくなったときが一番怖いと思った方がいいですね。
→〈その3〉につづく
『いい子に育てると犯罪者になります』 岡本茂樹(著) 新潮新書
『ロールレタリング: 手紙を書く心理療法の理論と実践』 岡本茂樹(著) 金子書房
『無期懲役囚の更生は可能か―本当に人は変わることはないのだろうか』 岡本茂樹(著) 晃洋書房