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「絵本の読み聞かせ」は、親子の相互関係を育むため、昔から多くの方が行っているコミュニケーション方法です。

子供と読む絵本は、単に親子の時間をつくるためのツールではありません。親子で絵本を開く時間は、想像以上に子供の能力を高めるよい機会になります。そして、絵本が子供に与える影響は、選ぶ絵本や読み方などでも大きく変わってくるのです。
この記事では、絵本遊びが与える子供のへの影響や絵本の”絵”の選び方、読むスタイルや読む人など、「絵本の読み聞かせ」についてさまざまな観点から紐解いていきます。

「絵本遊び」が親子関係に良い効果をもたらす?

さまざまなところで「絵本遊びが親子関係の質を高める」という説を耳にするのではないでしょうか。筆者が住む地域の自治体でも「ブックスタート事業」が行われていますが、親と子が絵本遊びで得る関係性は非常に重要視されています。
絵本遊びから得られる《子供への影響》には、どんなものがあるのでしょうか。

言語発達への良い影響

絵本を読み聞かせる際、書かれている言葉を子供が理解できないと判断したなら、簡単な表現に変えて読む親は多くいるのではないでしょうか。また、少し年齢が上がっても、子供が普段使っている言葉へ直して読み聞かせるなど「子供の発達に合わせた絵本の読み方をしている大人が多い」と数々の研究者が論じています。
そのため絵本遊びでは、年齢に合う適当な情報を子供に与えることができ、時には新しい言語も増やしながら、それぞれの子供に合わせた言語教育が可能といえます。

また子供にとっても、親が子に合わせて対応をすることで、親から受け入れられているという「認知的枠組み」を形成し、その結果として安定した愛着が形成されるのです。

親は、絵本に書いてある文字をただ朗読するだけでなく、子供の様子を注意深く観察し、子供に合わせて調節された働きかけを行う機会を通じることが重要です。それにより、ひいては親子関係の質を向上することにつながります。

感受性を豊かに!感情移入・心情理解への影響

絵本を読み聞かせることで情緒の種類(喜び・悲しみ・恐れ)に差が生まれるのかどうか、奈良教育大学の今井教授が実験研究しています。内容は次の通りです。

まず、保育園の年長児40名に対して、《絵本の読み聞かせをしたグループ》と《絵本の読み聞かせをしなかったグループ》をつくります。
実験スタート前と、実験から2週間経過後の2回、幼児の心理学研究で使用される「心情理解テスト」を受けてもらいます。
この2週間の間には《読み聞かせをしたグループ》に対して絵本3冊を各2回ずつ、計6回の絵本読み聞かせを行います。

実験は《読み聞かせを行ったグループ》の方が、他者の心情理解の成績が上昇する結果になりました。中でも特に「喜び」の情緒に関しては、悲しみ・恐れの情緒よりも成績が上昇していたのです。
しかし逆に「恐れ」の成績は低くなっています。絵本は、喜びや悲しみ・恐れ・怒りなど、さまざまな心情場面によって構成されてはいますが、幼児向けの物語は「ハッピーエンド」で集結するものがほとんどです。悲劇で終わるような話が少ないため「喜び」が読み手の印象に決定的な影響を与えると推測されています。

普段の生活の中で何かに挑戦するときも、悪い結果を想像して恐れを抱くより、「きっとうまくいく!」といった前向きな姿勢につながるかもしれません。

「つもり」「ごっこ」遊びにつながる創造性をやしなう

「ごっこ遊び」は幼児の成長に欠かせない役割を持っています。おもに3歳前後からみられるようになるごっこ遊びは、他人の気持ちを読む力が必要になるなど、自分以外を意識し始めないとできません。

例えば「お腹が空いたよ」というセリフに対し「それではコックさんになってお料理を作りますね!」というように《お腹空いた=ご飯が食べたい》という相手の心情を予測した行動が必要となるのです。ごっこ遊びでは、そんな子供の創造性をやしなうことができます。

親による「絵本へのレビュー文」を読み解き、子供の反応について記載した内容を分析した研究があります。筑波大学の上原氏によるこの研究では、絵本の読み聞かせがごっこ遊びへ良い影響を与えたことを報告しています。
この調査では、絵本の読み聞かせをした後に「絵本の再現」や「ごっこ遊び」などの反応が子供にみられた、という内容のレビューが多く書かれていました。これは「読み聞かせをした」と書かれているレビューの59%を占めており、子供が絵本の影響を高確率で受けたことを表しています。

幼児期に必要な「つもり」「ごっこ」遊びが出るツールとして、絵本の読み聞かせは有効であることが言えるのです。

同じ物語でも……「絵のテイスト」によって、子供の想像力の妨げに!?

絵本には、同じ題材であっても、ポップで可愛らしい絵で構成されたもの、また切り絵や版画絵などのようなエッジの効いたものなどさまざまな画風があります。
実はこの《画風の違い》によって、幼児が物語を理解する力や想像力に異なる影響を及ぼすことがわかっているのです。
ここでは、実際に行われた実験内容とともに、その内容についてご紹介します。

小学館・西村書店・福音館etc……同じ物語でも、出版社によって絵の雰囲気が違う!

「3びきのくま」という絵本があります。
このストーリーは複数の出版社から出版されており、それぞれ絵を書いた人物が異なります。千葉大学の中澤教授による研究では、この絵の違いが子供に及ぼす影響について検証されました。

まず、年長児クラスの男女に「どの出版社の絵が好き」か点数をつけてもらいました。これによると、子供に最も人気が高かったのは小学館の絵で、次に西村書店、講談社、偕成社、MIKIHOUSE、福音館という順でした。
上位3社の絵は《登場人物がかわいく、漫画的。色調は明るく、メルヘンなイメージの絵》という特徴がありますが、下位3社は《登場人物はかわいいとはいえない、色調は暗く、メルヘンなイメージを持たない絵》でした。




同じ題名の絵本であっても絵のテイストは異なり、子供も好き・嫌いの基準があることがわかります。

子供に最も好まれる「メルヘン可愛い」絵柄は、子供の想像力を妨げる!?

1番人気のあった「小学館の絵(可愛らしい絵)が好き」と答えた子供のグループと、最も人気がなかった「福音館の絵(色調が暗く、メルヘンでない)が嫌い」と答えたグループに行った、続きの実験があります。

「3びきのくま」の物語の途中までの紙芝居を、2種類の絵によって作成。そこから、物語の内容理解度の調査と「物語の続きを作ってください」という課題を行いました。
その結果、物語の理解度をはかる課題に関しては、絵の好みによる「理解度の差」はあまりなかったものの、「作話課題」に関しては絵による差が見られたのです。

「小学館の絵が好き」と答えた子供のグループは、短くて新しい、展開の無い話や日常的な話を作ることが多かったのに対し、「福音館の絵が嫌い」と答えたグループは、長くて、新しい展開のみられる話、あるいは独創性の強い話をつくることが多かったのです。

福音館の絵には「素朴な昔話の雰囲気と神秘性」という性質があるため、日常から離れた世界へと心を導いていった効果が得られたということです。あるいは「もっとこんなお話にしたほうが、素敵な雰囲気になる!」と、子供の創作意欲を掻き立てたのかもしれません。
一方、好きな絵の方はその魅力的な絵柄に心が満足し惹き込まれていったため、自身の想像力によって内容を補足する必要性を認めず、展開のない話を作るに至ったと考えられます。

さらに、中間位であった講談社の絵を加え、同様の実験をしてみました。小学館と福音館との中間の結果が得られるかと思われたのですが、実は福音館よりも作話に関しては、エピソードも多く、新しく出てくる物やキャラクターも多い、想像的な話が作られていたのです。

これらの結果において、子供が最も好む「明るい・漫画的・かわいい・メルヘン」な絵で書かれた絵本ばかりを与えることは、受け身になりやすく、子供の想像力の向上を妨げてしまう恐れがあることがわかります。しかし、必ずしも子供が受け入れにくい絵が最も想像力を伸ばせるというわけでもありません。読み聞かせを行う際には、子供の状態や何を育てたいかを考えながら、絵本の選択を行っていく必要があるのです。

あなたはどちらのタイプ?「共有型」「強制型」異なる読み聞かせのスタイル

子供の養育態度には、おもに2種類が存在しています。

ひとつは「うちで子供と楽しい時間を過ごす」「子供と一緒に旅行や外出するのが好きだ」といった、子供中心で子供との体験を享受することができる「共有型」。
もうひとつは「子供にはできるだけ私の考え通りにさせたい」「子供のした悪いことは、みな何かの形で罰を与えるべきだと思う」など、子供にトップダウンで関わり、子供に罰を与えることもいとわない「強制型」です。

この養育態度別に絵本の読み聞かせに関し、相互作用の違いについて、御茶の水大学の斎藤氏が行った研究があります。
これによると「共有型」養育態度の母親は子供に共感的であり、子供自身に《考える余地》を与えるような関わりが多くありました。一方、「強制型」養育態度の母親は、指示的で子供自身に《考える余地を与えない》トップダウンの説明の多い傾向がありました。

このなかで「共有型」養育態度のグループは、子供はより主体的に絵本に関わっていることが明らかになったのです。日常的に子供とのふれあいを大切にする親のもとでは、子供は親と対話しようという試みに快く応じ、自らも積極的に絵本に関わろうとし、絵本に対して興味や関心を持つのです。

筑波大学の内田氏らによる研究で「共有型」と「強制型」の語彙力をテストしたところ、「共有型」のほうが高いという結果がみられました。主体的に子供が関わることで、言語発達にポジティブな影響を当えていることがうかがえます。
語彙力の高さは「読解力」へとつながっていくため、子供への読み聞かせのスタイルは「共有型」での取り組みがより良いということがいえるでしょう。

読み聞かせを「父親」が行なう大切さとは?

絵本の読み聞かせといえば、なんとなく「母親」がするイメージがあります。しかし、父親が読み聞かせを行うことで、母親の読み聞かせでは得られない益があるのです。

育児に関わるチャンス

絵本の読み聞かせは、親子のコミュニケーションの場でもあります。ミルクを用意したり、変えのオムツを用意するなどといった”準備”は何も必要ありません。母親が家事をしている時間など、隙間時間を使って子供へ絵本を読み聞かせることができます。
必ずしも上手に読む必要はありません。忙しければ、寝かせる前の10分でも構いません。子供と一緒に楽しみながら、時には子供の成長も感じながら、親子の時間を過ごすことができます。子供にとっても、最高の時間になるでしょう。

男性の声で聞けるのも魅力

女性よりも低音である男性の声で物語を聞くと、いつも読んでいる絵本でも雰囲気が変わって聞こえてきます。例えば、ちょっと怖い話を低音を効かせて読むことで、いつもと違うドキドキ感を味わうことができるでしょう。また、そんな怖い話も父親から聞くことで、子供は安心して「怖い」を楽しむことができます。
ちょっと怖いことにも挑戦できるようになったりと、世界を大きく広げるきっかけにもなるのです。

母親とは違う絵本が選ばれている

いつもは母親が購入したり、図書館で借りた本を読むことが多いと思いますが、父親がメインで選んだ絵本は、いつもとは違ったテイストで子供にとっても新鮮な気分で聞くことができます。

男性が絵本を選ぶ特徴的な傾向として、残酷・少し下品・ワイルドな話などがあり、これらは母親が積極的には選ばないジャンルです。例えば、うんちやおならの話は、子供にとってはとても関心が高い話でもあります。特に幼い子供にとっては、あらゆる物語が大冒険。そこに信頼できる頼もしいお父さんが付き添うことで、子供は安心して心を開くことができ、より物語に没頭することができます。
子供の視野や本の世界への入り方など、母親にはできない役割というのがあるのです。

まとめ

絵本の読み聞かせには、親子の関係性の他にもさまざまな影響が子供に与えることがわかってきています。親の好みだけで絵や内容を見るのでなく、ぜひ子供の状態や何を育てたいかという観点も踏まえつつ絵本を選んでみてください。そして母親だけではなく、少しの時間でも良いので、父親による読み聞かせもチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

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【参考・引用・関連リンク】
佐藤鮎美(2016),絵本遊びが親子関係に良い効果をもたらすのは本当か?,ベイビーサイエンス, 16, p18-27,

クリックしてSato_BabyScience2016.pdfにアクセス

今井靖親(1994), 幼児の心情理解に及ぼす絵本の読み聞かせの効果,奈良教帝大学紀要 第43巻第1号(人文・社会) , p235-245.
https://nara-edu.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=12412&item_no=1&page_id=13&block_id=21

上原 宏(2015), 発達心理学の観点から見た絵本レビュー中の子供の反応の分析, 言語処理学会 第21回年次大会 発表論文集, P832-835

クリックしてB6-5.pdfにアクセス

中澤潤(2005), 絵本の絵が幼児の物語理解・想像力に及ぼす影響, 千葉大学教育学部研究紀要 第53巻, P193-202

クリックして96956720.pdfにアクセス

齋藤 有(2013), 幼児期の絵本の読み聞かせに母親の養育態度が与 える影響:
「共有型」と「強制型」の横断的比較, 発達倫理学研究 第24巻, 第2号, P150-159
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjdp/24/2/24_KJ00008761770/_pdf/-char/ja

川井 蔦栄(2008), 絵本の読み聞かせと親子のコミュニケーション,花園大学社会福祉学部研究紀要, 第16号, P83-96
https://hu.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=108&item_no=1&page_id=25&block_id=79

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