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子どもが生まれ父親となったのもつかの間、世のパパたちが最初に恐れるのは、最愛の子どもから容赦なく浴びせられる「パパ嫌い」の言葉・・・というと大袈裟かもしれませんが、我が子から実際に言われると、やはり悲しい気持ちになってしまうものです。

先日、乳児用液体ミルクメディアセミナー事務局が主催した講演会の音声データを聞いていたところ、大正大学 心理社会学部 人間科学科の田中俊介 准教授が「パパが嫌い、と子どもに言われるのも人見知りの一種です」と紹介されていました。

筆者の周りにも子どもから「パパ嫌い」と言われて落ちこむ父親は何人かいます。そこで気になったのは、母親と父親とで子どもとの関わりにどう違いがあるのか、なぜ父親だけが「パパ嫌い」と言われてしまうのかです。今回、人見知りの原理と父親の育児について考えてみたいと思います。

「人見知り」の明確な原理は解明されていない

2013年、京都大学や同志社大学、理化学研究所等の共同発表「赤ちゃんの『人見知り』行動 単なる怖がりではなく『近づきたいけど怖い』心の葛藤」によると、人見知りは他人だけでなく両親、さらに兄弟姉妹にまで発現することがあり、明確なメカニズムは分かっていないとのことです。

人見知りの原理が解明されていない現状において、どうすれば子どもの人見知りの対象から回避できるのでしょうか?筆者自身、生後4ヶ月の娘がいる父親として、もし子どもから「パパ嫌い」と言われたらと思うと内心ではビクビクしてしまいます。

「ボウルビィの愛着理論」から紐解いてみる

先述した共同発表にもある通り、人見知りの明確なメカニズムは解明されていないものの、行動心理学や発達心理学等では様々な理論が提唱されてきました。その中でも有力な理論として研究され続けているのが、1900年代の精神科医 ジョン・ボウルビィが提唱した「ボウルビィの愛着理論」です。

では、ボウルビィの愛着理論で提唱される、子どもが人見知りを発現するまでの3つの段階を見ていきましょう。

第1段階 生後〜3ヶ月頃

生後〜3ヶ月頃の子ども(赤ちゃん)は誰に対しても興味を示します。「新生児微笑」や「反射的微笑」とも呼ばれ、誰の顔でも、それこそ初対面の大人に対しても優しく微笑みかけることがある訳です。

一説によると、この頃の子どもが誰に対しても微笑みかけるのは、自身が弱者であることから強者(大人)の保護欲を誘うためと言われています。もしこの説が本当だとしたら、子どもはなかなかに強か(したたか)ですね。

第2段階 3ヶ月〜6ヶ月頃

3ヶ月〜6ヶ月頃になると、子どもは保護者(父親や母親)とその他を少しずつ区別しだします。まだこの頃の子どもの多くは誰に対しても興味を示しますが、中でも保護者に対する行動が増えてきます。

例えば、母親に対しては「キャッキャ」と声をあげて笑ったり、他人に抱っこされていても父親を目で追ったりなど。第1段階の期間でより密接な関わりを持った相手を「愛着の対象」として認識しだすのです。

第3段階 6ヶ月〜2歳頃

6ヶ月〜2歳頃、愛着の対象が明確なものとなると、ほとんどの子どもが保護者のような特定の対象にのみ愛着行動を示すようになります。子どもによって程度は様々ですが、いわゆる「人見知り」の始まりです。

他人が近づいただけで泣きだしたり、保護者の側から離れなくなったりなど。これまで大丈夫だった相手にも警戒心をあらわにするのですから戸惑うかもしれませんが、子どもの成長過程ではよくあることです。

「パパ嫌い」は子どもとの関わり不足が原因

ボウルビィの愛着理論にもあるように、子どもの成長過程において人見知りを発現させること自体は気にすることではありません。むしろ、保護者と他人を正しく区別できている証拠として安心さえできます。問題なのはたとえ保護者であっても、他人と同様に人見知りを発現させることがあること。父親が子どもから「パパ嫌い」と言われるように、子どもの愛着の対象から外れてしまうことがあることなのです。

では、なぜ保護者であっても人見知りされるのかと言うと、子どもが愛着の対象として認識しだす前、生後〜3ヶ月頃までに十分な関わりを持てていなかったことが1つの原因として挙げられます。冒頭でも紹介したように、筆者の周りにも子どもから「パパ嫌い」と言われている父親は何人かいます。明確な統計はありませんが、日本において母親と比べて父親の方が人見知りされる割合は多い印象です。

1999年、内閣府より男女の社会的な対等性を進めるために「男女共同参画社会基本法」が施行されました。総務省統計局の発表によると、2018年の女性(15〜64歳)の就労率は69.6%となり過去最高値です。しかし、内閣府の発表によると、2017年の男性の育児休暇取得率はわずか5.14%。対して、女性の取得率は83.2%と大きな開きがあり、仕事に育児にと女性の負担ばかりが増えている結果となりました。

育児休暇の取得率からも見えてくるように、子どもと関わる時間は女性が圧倒的に多いのは確かです。一家の大黒柱として頑張る父親には申し訳ないですが、「パパ嫌い」と言われるのも仕方がないのでしょう。

1日1回のミルクが子どもからの愛着につながる

男女共同参画社会が進められてはいますが、いまだに男性の育児休暇の取得にはハードルを感じます。筆者の友人にも「育児休暇を取れる雰囲気じゃない…」と嘆いている方がいるほどです。では、筆者を含めた父親たちは、子どもから「パパ嫌い」と言われるのをただ待つしかないのでしょうか?

もちろん、父親にも育児に参加できることは数多くあり、その1つとしておすすめしたいのが1日1回の「ミルク(授乳)」です。

ミルク(授乳)は生命活動には欠かせないもの

冒頭で登場した田中俊介 准教授も紹介していましたが、人間は自然界でも珍しく誰かに助けてもらわないと何もできない状態で生まれてきます。生後1〜2時間で走りまわれる馬などと比べると、同じ哺乳類でも大きな違いです。

中でも、生後間もない子どもが生き残るには、誰かに授乳(栄誉補給)してもらう必要があります。当然、子どもにとっても授乳してくれる「誰か」というのは、他人と比較しても欠かせない存在です。

子どもは授乳中に相手の顔をじっと見ている

生後間もない子どもの視力は未発達で、20〜30cmほどしか見えていないとされます。その為、2〜3ヶ月の子どもと毎朝顔を合わせていても、父親としてはっきりと認識されていない可能性もあるのです。

その点、授乳中であれば子どもとの距離がグッと近づきます。筆者自身、定期的に授乳をしていますが、子どもとの距離はちょうど30cmほどに。授乳中の子どもは筆者の顔をじっと見ていることが多いです。

つまり、授乳をすることで子どもにとって生命活動に欠かせない相手として、定期的に顔を認識する相手として愛着の対象に入りやすくなります。父親に授乳をおすすめする理由も納得いただけたことでしょう。

父親の授乳は母親の負担軽減にもなる!

さらに、母親にとって授乳は育児でとても負担の大きなものです。出産直後から毎日2時間おきに、少しずつ間隔が広がるとしても毎日6〜8回の授乳をします。たとえ2時、3時の深夜過ぎであってもです。

もし、父親が朝一の1回、深夜過ぎの1回だけでも授乳してくれたらどうでしょう。その分だけ母親はゆっくりと過ごせるので、子どもから愛着の対象として認識されるだけでなく、母親の負担軽減までできます。

「パパ嫌い」と子どもに言われてしまう前に!

今回、子どもに「パパ嫌い」と言われる理由、人見知りの原理について考えてきました。ボウルビィの愛着理論でも紹介したように、生後〜3ヶ月頃に十分な関わりを持てていないことが1つの原因です。

現代の日本において父親が育児休暇を取得するのにはハードルがあり、育児参加の時間は制限されています。それでも父親ができる育児は様々あり、その1つとしておすすめしたいのが「ミルク」です。

子どもの愛着の対象から外れてしまうことは、「他人」として認識されていると言っても過言ではありません。愛着の対象から1度外れてしまうと挽回するのは難しく、「パパ嫌い」から抜け出すのは大変です。

もし、まだ子どもから「パパ嫌い」と言われていないのであれば、授乳にこだわらずともまずはできることから育児に参加していただければと思います。

【参考・引用・関連リンク】
■国立研究開発法人 科学技術振興機構
『赤ちゃんの「人見知り」行動 単なる怖がりではなく「近づきたいけど怖い」心の葛藤』
https://www.jst.go.jp/pr/announce/20130606/index.html

■総務省統計局 労働力調査(基本集計)平成30年(2018年)平均(速報)結果の要約
https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/ft/pdf/index1.pdf

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