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子供が生まれると、母子手帳や自治体から送付されるパンフレットなどで、定期的に受けるべき予防接種があることが知らされます。一方、インフルエンザの予防接種など、自主的に接種する必要のある予防接種もあります。こうした任意の予防接種について、どれくらいの方が受けているのか気になったことはありませんか?

「感染するかどうかわからない病気のために注射をするのはちょっと……」
「健康なのに病院に行って、風邪やインフルエンザをうつされるほうが心配」
「予防接種の副作用が気になるから受けさせたくない……」
など、任意の予防接種を受けない方にも何かしらの理由があるかもしれません。

この記事では、定期接種・任意の予防接種のおもな種類について解説します。そして、とくに注意が必要な予防接種がない感染症についても併せて知ることにより、冬の感染症対策に役立てていただければ幸いです。

また、一番身近で効果のある感染症予防「手洗い」の正しい方法とその効果についてもご紹介します。

おさらいしましょう《定期予防接種》の大切さ

定期予防接種は「ワクチン」とも呼ばれ、あらかじめウイルスや病原体などの細菌に対する免疫(抵抗力)を体内に作り出しておくことで、病気になりにくくするのが目的です。

胎児の頃に母体から免疫を受け継ぐといわれていますが、その抗体はだんだんと失われていきます。例えば、百日せきの抗体は生後すぐ、また、麻しん(はしか)の抗体は乳児期後半には失われてしまうのです。そこで、百日せきを含む4種混合ワクチンは生後3ヶ月、麻しんを含むMR(麻しん風しん混合)ワクチンは生後12ヶ月になったら、早い時期での接種が推奨されています。

また、生後2ヶ月から接種ができるHib(ヒブ)感染症のワクチンは、ほとんどが5歳未満に発生するHib感染症のリスクを減らすことができる予防接種です。もしHib感染症が乳幼児に発症し、肺炎や髄膜炎、関節炎などといった重篤な疾患にかかると、3~6%の子供が亡くなってしまうといわれています。中でも髄膜炎の場合、生存した子供の20%に難聴などの後遺症が残ってしまう怖い感染症なのです。
ワクチンを接種することで、死亡もしくは後遺症が残るリスクを減らすことができます。

こうした定期接種は自治体が主体となって実施しており、接種費用は公費で賄われているものです。定期接種によって健康被害が発生した場合には、救済給付の制度が整っています。

自治体によって、実施している予防接種の種類は異なりますが、個人的な負担は基本的には発生しません。例えば、全部で4回接種が必要なHibワクチンは、自費で受けようとすると合計3万円以上掛かることも!

定期予防接種はスケジュールをたてて、1回目、2回目……追加と受ける必要があり、この回数をすべて受けなかった場合、その効果はなくなってしまいます。
乳幼児を連れて何度も病院へ足を運ぶのは大変なものですが、せっかく自己負担なしで受けられる制度ですので、漏れのないよう接種しましょう。

※日本では、通常生後5~8ヵ月ごろに接種する結核ワクチンのBCGが、新型コロナウイルスの感染予防にも有効なのではないかと注目を集めています。
2011年に西アフリカで実施された研究報告(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21673035)では、新生児期のBCGワクチン接種がのちの呼吸器感染症での死亡率を下げるという結果もあり、期待してしまいますね。実際の有効性は、臨床試験の結果を待たなければはっきりしませんが、親として改めてワクチンのことを知っておく必要があると痛感します。

受けていますか?任意の予防接種3種


定期接種については、母子手帳にシールやスタンプを押してもらったりして、受けたことがわかるようになっています。幼稚園や保育園でも漏れがないか確認され、就学前にすべて受けるよう指導されるでしょう。そのため、接種に漏れがあることはほとんどないかもしれません。

一方「任意接種」という項目についてはどうでしょうか。任意ということは受けなくてもいいのではないか、受けないとどんな病気にかかるんだろうと気になりませんか?
ここでは、任意の予防接種3種類と、感染症の症状についてご紹介します。

※自治体によっては、定期接種に組み込まれている可能性があります。

おたふくかぜ(週校正耳下腺炎)

おたふくかぜは、頬が真っ赤に腫れる印象が強い感染症です。わたしたち親世代では、子供の頃このおたふくかぜにかかっているお友達を見たことがあるという方が多いかもしれませんね。

感染力の強い”ムンプスウイルス”によるもので、全身の臓器や神経組織を侵す合併症を引き起こすおそれがあります。100人に1人が無菌性髄膜炎を、500人~1000人に1人が回復不能な片側難聴を発生する、意外と怖い病気なのです。

とくに注意が必要なのは、男児が精巣炎(睾丸炎)を合併すること。睾丸収縮が伴うことで精子数が減少し、将来不妊の原因となることが稀にあります。思春期以降におたふくかぜにかかった場合、40~20%が精巣炎(睾丸炎)を合併するというデータがあるのは恐ろしい事実です。そのため、とくに男児には受けさせたい予防接種と言えるでしょう。

接種後3週間後まで副作用が出る可能性があるため、その間に旅行などの予定がある場合は注意が必要です。
副作用はおもに

  • 発熱
  • 耳下腺のはれ
  • 嘔吐
  • 鼻汁など
  • を認めることがありますが、どれも一般には症状が軽いとされています。

    1回目が1歳ごろ、2回目が小学校入学前と間が数年開き、また自治体からのお知らせもないので、各家庭でしっかりとスケジュールを把握しておく必要があるでしょう。

    インフルエンザ

    秋ごろから流行のニュースが出はじめ、世界的な大流行も発生しうる、感染力の高いインフルエンザ。39~40度の高熱に加え、肺炎や急性中耳炎、脳症などの合併症を起こして重症化するケースがある、怖いウイルスです。

    予防接種について、とくに乳幼児においては20~60%の発病予防効果があったという、相馬総合病院の小児科医片寄氏らによる調査結果があります。幼稚園や小学校へ通っている兄弟姉妹がいる場合、または家族が仕事などで不特定多数の人と接する機会が多い場合には、予防接種を受けておくと安心です。

    ただし、インフルエンザワクチンにはごく微量に卵タンパクが含まれているため、卵アレルギーの場合には主治医と相談してから接種をする必要があります。

    ロタウイルス

    ロタウイルスは、子供に急性胃腸炎を引き起こすウイルス。大人はすでに何度もロタウイルスに感染している事が多いため、症状が出ないのが一般的です。
    感染力はとても高く、少し体内に入るだけでも発症してしまいます。5歳までにほとんどの子供がこのロタウイルスに感染しており、日本では年間80万人ほどの患者数がいるとされています。

    ピークとなる年齢は生後6ヶ月から2歳。初めての感染では強い症状が出ることが多く、胃腸炎で入院する6歳以下の子供のうち、約半分ぐらいはロタウイルスが原因とされています。ロタウイルスに感染した15人~43人に1人(年間26,500人~78,000人)は、入院が必要となっているのです。

    ワクチンの1回目は生後14週6日までの接種が推奨されているため、事前に接種可能な病院のリサーチが必要となります。

    ロタウイルスのワクチンは「ロタリックス」「ロタテック」の2種類。ロタリックスが2回接種、ロタテックは3回接種で、予防効果について多少の違いがあるものの、必要な部分は両方ともカバーされています。

    予防接種がない!とくに幼児が注意したい感染症とは?


    感染症には、予防接種がないものもたくさんあります。非常に多くの種類の感染症が存在していますが、その中でもとくに乳幼児・幼児に注意したい感染症をご紹介します。

    ノロウイルス

    感染率が高く大人でも注意が必要ですが、子供の場合は脱水症状が急速に進行することがあるため、とくに気をつけたい感染症です。発症した場合には経口補水液を飲むことが推奨されていますが、味が好みと違うと飲むのを嫌がる子供もいるため、点滴での水分補給が必要になることもあります。

    また、ノロウイルスによる胃腸炎では「二次性入糖不対症」が発症するため、乳児が感染した場合には母乳を中止し、無乳糖の粉ミルクを使うなどの対処が必要になることもあるでしょう。

    手足口病

    名前の通り、手や足、口(口周りや口腔内)に発疹ができ、5月から10月ごろに多くみられます。みずぶくれ状の発疹のほかに、腹痛や下痢、発熱など風邪のような症状が出るのが特徴です。とくに乳幼児など低年齢の子供が感染すると、髄膜炎や脳炎など中枢神経系の合併症が起こるおそれがあるので注意が必要です。

    手足口病は、発疹などの症状がおさまっても2~4週間はウイルスが便の中に排出されるので、低年齢のきょうだいが居る場合などは、油断しないようにしましょう。

    プール熱(咽頭結膜熱)

    夏にプールを介して感染することが多いため「プール熱」とも呼ばれている、小児の急性ウイルス性感染症です。5歳以下の患者が6割を占めており、子供に多くみられます。

    とくに注意が必要なのは、生後14日以内の新生児に感染した場合です。全身性感染を起こしやすいことが報告されており重症化する場合があるため、乳幼児がいる場合には不特定多数のプールへ通うのは気を付けたほうが良いでしょう。

    突発性発疹

    どの子供も一度はかかるといわれている突発性発疹は、生まれてから初めての発熱時に見られることが多い感染症です。生後4ヶ月から12ヶ月のほとんどの子供がかかるといわれています。高熱が3~4日続いた後、熱が下がると全身に発疹ができるのが特徴です。
    この時の発疹に凹凸はなく、平面的な赤い点が広がるように見られます。

    一方、5歳以下の乳幼児に多く、同じように発疹が出る「川崎病」は、発熱したまま発疹が出ます。川崎病も無治療の場合、約25~30%の割合で冠動脈に拡大性病変を合併し、血栓形成によって心筋梗塞発祥の危険因子となるので、発疹が出たときは注意が必要です。

    もっとも身近な感染症予防「手洗い」を見直そう!


    ウイルスはさまざまな経路で、口や鼻を通じて体内へと進入していきます。空気感染の場合マスクをすることで感染の予防へとつながりますが、子供たちが多く集まる施設での接触による感染は、完全に防ぐことは非常に難しいものです。

    接触感染や経口感染を防ぐことができるもっとも身近な予防法は「手洗い」。
    人と直接触れ合ったり、同じおもちゃを貸し借りする中で「手」の干渉は免れません。小さい子はとくに、自分の手を顔・口付近に持って行きやすいため、よりウイルスが体内に入りやすい環境になります。

    ここからは、子供達そして家族の健康を守る「手洗い」の重要性を再確認していきましょう。

    手洗いで、感染症はどのくらい防げるか

    北海道医療大学の細貝氏らによる研究では、子供がいる家庭での「手洗い調査」として、手の細菌数の測定を行ないました。ここでは、

  • 水道水による流水法
  • 石鹸修水法
  • ラビング法(速乾性擦式手指消毒剤)
  • での手洗いを実施し、手の細菌数を測定しています。

    10歳前後の児童の場合、石鹸洗浄では細菌数はほとんど減りませんでしたが、消毒剤を使うと菌が減少したという結果がでました。
    この結果だけを見ると、石鹸で手を洗うことは効果がないようにみえます。

    一方、大人の場合はというと、石鹸洗浄でも細菌数は顕著に減少しました。子供の手全体の平均細菌数の指標は約154だったのに対し、大人の場合は約1220と、10倍近い差が生じていたのです。つまり、もともと保持していた細菌数の分母が異なったわけです。
    イメージ的には、子供の方があれこれとベタベタ触り衛生観念も低いように感じますが……。これはどういうことなのでしょうか。

    家庭内における細菌数を調べたところ、食器を洗う時に使うスポンジ等において細菌が最も多いのに対し、床や勉強机などではあまり検出されなかったことがわかりました。大人は家事をするが、子供はしない、といった家庭内での過ごし方が異なることから、細菌数に差がでたのだと推測されています。

    しかし、外から帰ってきた子供の手には多種多様な菌が付着しており、この調査結果でいう大人のような数に達していると想定した場合、石鹸での手洗いでも十分な効果があることが期待できます。

    使用した消毒剤は、病院など医療現場でも使われているポンプ式で、手のひらでこすると揮発するタイプのものです。最近ではドラッグストアなどでも類似品が発売されていますので、簡単に手に入れることができます。手で擦るだけで手軽に除菌できるため、感染症が流行している時期などは、消毒剤を併用した手洗いが絶対的におすすめです!

    帰ったら必ず手洗いを!子供がきちんと洗えているかチェックして

    子供の手洗いについて、新潟県の薬剤師らが所属する薬局が主体となって行なった研究調査があります。

    保育園で手洗い教室を開催し、幼児の手洗い能力の評価を行ないました。対象としたのは年少(3~4歳)と年長(5~6歳)で、手洗いと消毒のお話や手洗い歌のお遊戯をするなど、子供たちに対してじゅうぶん指導を行ないます。そのあと手洗いを実施し、洗い残しの評価を行なうものです。

    その結果、ご想像の通りではありますが、年長児は洗い残した部分は少ないのに対し、年少児は洗い残しが多く残っていました。正しい手洗いを意識しても、まだ3歳や4歳ごろの子供の場合は洗い残しが多いので、きちんと洗えているかどうか確認やしたり、一緒になって手洗いをしてあげることが必要でしょう。

    「泡石鹸」には洗浄成分が少ない!?「液体石鹸」のススメ!

    手洗い用の石鹸には、固形石鹸、液体石鹸、そして最近ではポンプ式で洗いやすい泡石鹸も各メーカーから販売されています。感染症予防としてふさわしい石鹸はどれになるのでしょうか。

    固形石鹸は、洗浄成分である界面活性剤の含有量がこの中でも一番多く、泡も洗い流しやすいという利点があります。しかしそれは、泡立てをしっかりできる場合のはなし。子供は子水分との割合などコツがつかめず、うまく泡立たないこともありますよね。

    液体石鹸の界面活性剤の含有量は、固形石鹸よりは少ないものの、泡石鹸よりは多く含まれています。ポンプ式なので子供でも簡単に石鹸を手に出すことが可能です。

    最近人気の高い泡石鹸は、泡立てる必要がないため、うまく泡立てることが難しい低年齢児にはおすすめ。しかし、洗浄成分の含有量は最も少ない石鹸です。

    子供が使いやすい「泡石鹸」と「液体石鹸」を比較して、手の細菌の除去について調査したアメリカの研究結果があります。石鹸別に手の細菌の除去能力を比較したところ、泡石鹸は液体石鹸ほど効果がみられませんでした。

    感染症予防としては、液体石鹸のほうがおすすめといえます。

    正しい手洗いの方法をおさらい!

    最後に、正しい手洗いの方法を確認しましょう。

  • 1.水で手をぬらして、石鹸を泡立てます
  • 2.手の甲をモミモミ。
  • 3.手を組むようにして、指の間をモミモミ。
  • 4.親指を反対の手で握って、クルクル回すように。
  • 5.手のひらを反対の手の爪でかくようにゴシゴシ。爪の間にも泡が入ります。
  • 6.手首を握って、クルクル。
  • 7.清潔なタオルで拭いて、最後に消毒液をこする
  • 子供と洗う時は、大げさなくらい褒めながら行いましょう!

    まとめ

    任意の予防接種は、親が自主的に動かなければならないため、スケジュールが漏れてしまったり、受ける意識が低かったりすることもあるかもしれませんね。しかし、定期接種以外にもさまざまな感染症があり、重症化すると後遺症につながるものもあるため、予防接種の大切さを再確認する必要があるでしょう。

    予防接種がない感染症を防ぐためにも、手洗いをしっかりと行うことを子供にも伝えてください。家族の健康を守るのは、わたしたち自身です。

    ※本記事は、予防接種に関するデータ・論文・資料等をリサーチし、まとめたものになります。実際の感染症の診断や予防接種を行うかどうかの判断は、必ずかかりつけ医師又は専門医にご相談ください。

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    【参考・引用・関連リンク】

    予防接種スケジュール(NPO法人 VPDを知って子どもを守ろうの会)
    http://www.know-vpd.jp/dl/schedule_age7.pdf

    Katayose et al. (2011) The effectiveness of trivalent inactivated influenza vaccine in children over six consecutive influenza seasons. Vaccine. Feb 17;29(9):1844-9
    https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0136539
    https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0264410X10018220

    大久保耕嗣(2013)保育園における手洗い教室の実施と幼児の手洗い能力の評価、環境感染誌Vol.28 No.1、33-38
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsei/28/1/28_12-047/_pdf

    磯貝恵美子(2007)家庭内のおける除菌のための手洗い効果と環境表面からの細菌の検出、環境感染、Vo.22 No.3 175-180
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsei1986/22/3/22_3_175/_pdf/-char/ja

    Dixon N, Morgan M, Equils O .(2017)Foam soap is not as effective as liquid soap in eliminating hand microbial flora, Am J Infect Control Jul 1; 45(7):813-814.
    https://www.ajicjournal.org/article/S0196-6553(17)30082-2/fulltext

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