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子育てをしていると、教育の話題はもっとも長い時間、親子を悩ませます。受験はもちろん、ハイハイしている時からベビーサインにリトミック、英会話など手探りに試してみます。それ以前のお腹にいるときには、胎教と呼ばれる教育が始まるのですから忙しいですね。まずは、日本の教育のメリット、デメリットを確認しましょう。

受験や規範に重点をおく日本の教育

受験のための教育を行い、画一化された大学入試センター試験を受け、大学にストレートに入学できなかった者を浪人と呼び、一年でも遅れることを許さなければ、飛び級もほぼありません。辛辣な言葉を使えば、日本の学校は「金太郎飴製造機」であり、子どもを社会で通用するよう「矯正」し、サラリーマン仕様に規格化するとまで言われています。それなのに「キャリア教育」という科目を導入している日本。薬剤師、消防士、医師、パイロット…子どもたちの抱く夢をみせてくれます。

制度自体は色んな職業を経験し、見聞を広めるという点で、とても良いものです。しかし、8割強の人間がサラリーマンになる日本で、学業成績によって職業が決まる日本の教育制度に合っているかは分かりません。英語教育も然り。親の世代でも中学校から大学までの10年間、英語を学んだのにこれだけ話せない。それを小学校から導入し始めたのですが、効果的とは思い難いところです。

ご近所の国を見てみると、受験が大変な国は少なくありません。韓国、中国も国家の宝である受験生のために、軍隊やパトカーがサイレンを鳴らしながら、東奔西走している姿が風物詩となりました。それだけ社会が受験、学歴を重視しているのは明確です。日本から少し離れたシンガポールやスリランカも大学センター試験さながらの大イベントがあり、厳しい審査と一発勝負の試験を突破できた者だけが、晴れて大学入学となります。人種差別が無いだけ日本は恵まれているのかもしれません。ともあれ、まだまだ学歴社会の国は多くあります。

同時に、世界に誇れる日本人の「心」を育てているのも学校教育。アメリカで学んでいる時、よく図書館の本を返しそびれてしまい、放課後に掃除をするよう言われていました。掃除が罰則?使ったものを元に戻す、挨拶をする。当たり前にしなければいけないと思っている事が、ルールを破った者に課せられるというのは、なかなか受け入れがたい日常です。毎日の掃除の時間、黒板消し、日直、給食当番…これらは欧米ではまだまだ珍しい習慣です。日本の清貧な心や謙虚さは、学校生活をはじめとする様々な場面での集団生活から開花したのかもしれません。

憧れの北欧教育と社会背景

地球儀の左上の方を見てみましょう。北欧フィンランドは宿題を廃止し、学力が劇的にアップしたことで話題となりました。アメリカやアジア諸国では、「受験に必要ない」という理由で詩や公民の授業が廃止される一方で、フィンランドは体育、美術、料理、音楽を追加。「テストでいい点を取ることが教育ではない」「人生には勉強の他にも学ぶことは山ほどある」という信念から、学校は幸せになる方法を学ぶ場所だと国策を打ち出しました。教育ビジネスは違法なのです。スロベニアも教育が公益でなくなるとし、教育は無償が当たり前で、奨学金などの借金はもちろんありません。塾通いに忙しい我々には、子どもの桃源郷のようです。

これだけ読むと、お金やライフスタイルの問題がなければ「北欧で子育てしたい!」「のびのび育てたい!」と思います。筆者の私自身も移住したい派です。しかし、ここで忘れてはならないのは、教育から派生する社会体制でしょう。

2011年、ノルウェーの島でサマーキャンプを行なっていた86人の命が、銃乱射の悪夢によって失われました。殺されたほとんどが10代~20代の若者で、日本では考えられないほどのテロ行為です。ノルウェーには死刑制度がありません。その為、このような犯罪でも最長21年の禁固刑であり、いまも「世界一快適」といわれるノルウェー刑務所で過ごしているのです。再犯率の低いノルウェーですが、犯人は当時32才であったので、どんなに長くても53才までには社会復帰する事になります。押しつけたり、強要したりすることは何にもならない…教育も違えば、法制度も社会制度も違ってきます。夏休みになった7月、楽しそうにリュックにキャンプの準備をして、笑顔で玄関を出て行った我が子を思ったとき、死刑制度がなく、更生を応援することを「最高の国」と言えるかは、子どもを持つ親にとっては非常に難しい問題でしょう。

世界は識字率向上を目指している

日本が最も誇れるもう一つのものは、100%近い識字率。世界では、字を読める子どもの方が少ないのです。ユネスコ統計研究所(UIS)の2018年データを元に、ユニセフが『子どもたちのための人道支援報告書(Humanitarian Action for Children-HAC)の中で述べたのは、世界の若者の識字率の低さでした。政情不安と深刻な貧困が長く続く、ニジェール、チャド、南スーダン、中央アフリカ共和国では、若者の非識字率が世界で最も高く、15歳から24歳の若者のうち読み書きができない人の割合は、それぞれ76%、69%、68%および64%でした。

字が読めないとどうなるのでしょう。アフガニスタンやカンボジアでは、崩壊寸前の建物や、ワニやピラニアなどの危険動物のいる湖、地雷原に「立ち入り禁止」の看板がとても多く見られます。字が読めなくとも理解できるように「ドクロマーク」などが書いてあることもありますが、案内板が読めずに迷い込み、命を落とす親子も多いのです。また、アジア諸国では自力で出産する地域も多く、分娩キットが300円前後で当たり前のようにコンビニで売っています。中身は、ビニール手袋、石鹸、へその緒をしばる糸やクリップ、切断に使うカミソリなどです。陣痛に耐えながら自分一人で、赤子を片手で引っ張り出す、もしくは誰か介添えがいるとしてもイラスト入りの説明書きだけでは不十分です。こんな状況では、注意書きや禁忌事項、トラブル時の対応は不可能で、命を落とす母子が後をたちません。
国民に〝読み書きそろばんができる〟という平均的な教育を施すという意味では、日本の教育は得意分野と言えそうです。

全人類に基礎教育を受けさせるためには、60億ドルかかると言われています。これは世界が戦争をやめて軍事費を教育費に3日間あてると捻出されるお値段。「戦争」というと仰々しいですが、自衛隊のガソリン代や演習費、食事代も入ります。世界の国々が、軍事費を教育費に少しでも変えることができれば、すぐに世界の子どもたちに教科書代も制服代も用意できますね。子どもたちの未来につながるものは、防衛でも政治でもなく、やはり教育なのかもしれません。

教育を知るために大切なこと

教育と国策はとても密接なものです。ここまでさまざまなスタイルを紹介しましたが、忘れてはならないのは、学びの根幹は家庭教育だという事です。教育は特別なものではなく、もっとも身近でいつもそばにあるものです。そして教育を知るためには、法律、福祉、医療、文化、歴史、政治にも目を向けなければなりません。だからこそ大変なのです。悩まない家庭はありません。
マザーテレサの四訓に、このような言葉があります。

乳児はしっかり肌を離すな
幼児は肌を離せ 手を離すな
少年は手を離せ 目を離すな
青年は目を離せ 心を離すな

子育てをしている大人なら何度も確認したい言葉です。親にできることは、子どもたちが人生の迷子にならぬよう保護者として背中を見守ること。家庭教育や保護者の力では足りない所は、諸外国や身近なお友達の良いところを見習うこと、素直に力を借りること。そして、子どもの話を目を見て聞き、家族で話し合い、一緒にゆっくり考えることが、いつの時代にも必要なことだと感じます。

【参考・引用・関連リンク】
澤井陽介『授業の見方―「主体的・対話的で深い学び」の授業改善』(2017年7月 東洋館出版社)

カトヤ・パンツァル 『フィンランドの幸せメソッド SISU(シス)』(2018年9月 方丈社)

船津 徹『世界標準の子育て』(2017年7月 ダイヤモンド社)

澤野 由紀子,鈴木 賢志,西浦 和樹,アールベリエル 松井 久子 川崎 一彦『みんなの教育 スウェーデンの「人を育てる」国家戦略』(2018年3月 ミツイパブリッシング)

マイケル・ムーア『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』(DVD:2016年 ソニー・ピクチャーズエンタテインメント)

※1,2
ユネスコ統計研究所(UIS)の2018年データhttps://en.unesco.org/gem-report/report/2015/education-all-2000-2015-achievements-and-challenges
ユニセフの『子どもたちのための人道支援報告書(Humanitarian Action for Children-HAC)2018年』(2018年)

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