我が子を褒めて育て、自信を持って人生を歩んでほしいと親なら誰しも願うものではないでしょうか。

しかし“褒め方”を一歩間違うと、とんでもない結果を生んでしまうという研究結果があります。
コロンビア大学でクラウディア・ミューラー氏とキャロル・デュエック氏が発表した子育ての常識を覆す「褒める」ことについての大規模な実験です。

Praise for Intelligence Can Undermine Children's Motivation and Performance

“Praise for Intelligence Can Undermine Children’s Motivation and Performance”

10歳から12歳の子ども約400人を対象としたこの実験では、対象となった子どもたちをグループに分けて、図形を使ったIQテストを実施しました。

1回目のテストは、どの子どもたちも高得点が取れそうな比較的やさしいテストでした。そして、子どもたちには実際の成績は伏せて、各々の子どもに8割以上正解していたと伝えます。そして成績を伝えると同時に、第1のグループの子どもたちには、一言こう添えるのでした。
「たくさん問題が解けたなんて、頭がいいのね!」

第2のグループには、成績を伝えるだけで、特に何も褒めるような言葉はかけませんでした。次に2回目のテストを行います。今回のテストは、子ども自身にどちらかの問題を選ばせることにしました。片方のテストは、「1回目のテストより難しい問題で解けないかもしれないが、チャレンジすれば何かを学ぶことができる」と伝えた問題。もう片方のテストは、「1回目と同じ程度でやさしい」と伝えた問題。

するとどうでしょう、1回目のテストで「頭がいい」と褒められた子どもの約65%が、やさしい問題の方を選び、何も褒められなかったグループでは、やさしい問題を選んだのは45%でした。

Carol Dweck

キャロル・デュエック氏 http://mindsetonline.com/abouttheauthor/ より

ミューラー氏とデュエック氏はこう指摘します。
頭がいいと褒められると、とても気分がいい反面、失敗を恐れる傾向が強くなります。うまくいかなかったら格好悪い、恥ずかしいという意識が強くなり、挑戦することを避けてしまうのです。

さらに3回目のテストでは、わざと非常に難しいテストを実施しました。当然全員の子どもたちがあまり良い成績をとることができなかったのだが、家に帰って続きをやってみたいかを尋ねました。するとグループ間で大きな差が見られました。褒められたグループの子どもたちの中で「家に帰ってから続きをやりたい!」と答えた子はほとんどいなかったのです。

さらにこの実験は酷なことをさせます。あまり成績の良くなかった、難しいテストの点数をみんなの前で発表させるのです。
最初のテストで特に何も褒められなかった子どもたちの中で、嘘をついて実際の点数より高い点数を言ったのは10%。最初のテストで「頭がいい」と褒められた子どもたちの中で、嘘をついた割合がなんと40%もいました。

頭がいいと思っていて悪い点数を取ってしまうと、想像以上に心理的に影響を与えていることが分かります。

この実験はこれで終わりではありません。実は、もう一つ別のグループがあります。
もう一つの別のグループの子どもたちは、1回目のテストで成績を伝えられた後に、このように褒められました。
「いい点が取れたのは、一生懸命がんばったからだね。」

「頭がいい」と知能を褒められたのではなく、「努力したこと」を褒めたのです。
同じように2回目のテストでは、難しい問題とやさしい問題を選択させます。するとどうでしょう、努力を褒められたグループの子どもたちは、約90%が難しい問題を選択したのです。さらに難しい問題にチャレンジした子どもたちは、家に帰っても続きをやりたいと言った子の割合も高くなりました。

3回目の非常に難しいテストでは、当然同じようにあまり良い成績が取れませんが、その反応が違っていました。
努力を褒められたグループの子どもたちは、このテストを気に入ってやる気満々だったようです。一方「頭がいい」と褒められたグループの子どもたちはこの時、非常に緊張した表情でした。

そして最後に全てのグループの子どもたちに、1回目のテストと同じ程度のテストを実施します。
「頭がいい」と褒めた子どもたちは平均して20%成績を落としてしまったの対し、「一生懸命がんばった」と努力を褒められた子どもたちは平均して30%も成績を伸ばしました。

この実験結果を踏まえて、さらにデュエック氏たちは追跡調査も行っており、生まれつきの知能に自信を持っている子どもたちは総じて努力を軽んじ、挑戦することを避ける傾向があったそうです。逆に、努力を褒められた子どもたちは、成績が良くないのは、自分の努力がまだ足りないからだと、困難にもチャレンジする傾向があり、努力の大切さを学ぶようです。さらに後の実験で、もっと年齢の低い幼児や逆に年齢の高い子どもたちの場合でも、同じような実験結果が得られたという事です。

褒める行為が全面的に良いことだと単純に考えていると、真逆の効果を生んでしまう危険性があると言えます。子どもを褒める行為にもコツがあり、子どもの取り組む姿勢や時間の使い方、人との関わり方など、その子の“努力した部分”を褒めてあげることが重要です。

言葉のかけ方一つで、大きく変わってしまう・・・。
親の責任の重大さを痛感します。

〈参考文献〉
Claudia M. Mueller and Carol S. Dweck
Columbia University
“Praise for Intelligence Can Undermine Children’s Motivation and Performance”

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